あなたの恋人は、あなたが悪い奴らに囲まれたら助けてくれますか? 突然、大災害に遭遇したらあなたを守ってくれますか? 「もちろんよ!」と思っているかもしれない。でも、本当に〜? 映画『フレンチアルプスで起きたこと』は、高級リゾートでスキーバカンス満喫中、雪崩に遭遇したスウェーデンの一家の物語。災難に遭遇したとき、なんと妻と子供を置いて、夫はひとりで逃げてしまったのです。そこから夫婦間に漂ういや〜な空気……。 リューベン・オストルンド監督は、長年「人間は自然災害のような突然起きた予期せぬ事態でどのように行動するのか」ということを考えていました。そして調査を重ねて得た結果がこの映画。そうです、男は逃げちゃうんですよ! でもそれには理由があるのです。 極限の状況では、想像できないほど自己中な行動に出る!オストルンド監督の知人の夫婦がラテン・アメリカを旅していたとき、拳銃を持った男が現れ、突然発砲したそうです。夫はすぐに逃げて隠れましたが、妻を置き去りにしたままだったそう。2人とも事なきを得ましたが、妻はいまだにお酒が入ると、このときの話を何度も何度もするそうです。 「私はこれに似た事件など実際にあったケースを調べました。ツナミ、船の海難事故、ハイジャックなど緊急事態に遭遇した人々のケースです。人々はこのような極限状況に放り込まれると、想像しえないあまりにも自己中心的な行動に出るそうです。そしてこのような状況を乗り越えても、多くの生存者カップルは離婚してしまうのです」
男女も家族も自分の役割を演じているだけ?映画では雪崩のパニック後、家族の関係はそれまでの仲良しから一気にぎこちなくなります。パパが逃げたことに子供たちは傷つき不機嫌に。妻はぎこちない笑顔を作っていますが、夫とどう接していいのか悩みます。夫は「みんな助かって良かったね」というように場をつくろいますが、はっきりいってシラけます。 しかしそれには、「男は妻や子供を守る存在でいなければならない」「危険に直面しても逃げてはいけない」という、家族や男女がそれぞれ相手に課している役割に関係があると監督は言います。 「彼の本能は妻や子供を見捨てて、自分が助かる道を示しました。彼は生存本能を隠せなかったのです。実は家族はそれぞれに役割があり、その通りに行動することを求められているのです。母親は子供たちの世話をする役割、父親は突然の危機には家族を守るために立ち上がる役割です」
守ってもらえなくても「そんなもんだ」と思いましょう!でも、本能と役割は一致するわけではないのですね。だから、男は守る人と言われても、パパは突然雪崩に襲われて咄嗟に「わ〜!」と本能で逃げてしまったわけです。 30以上の国々の1万5,000人を記録した海難事故のデータでも、女性の生存率は低いそうですから、過度な期待は禁物。守ってもらえなくても「ああ、やっぱりね」「そんなもんだ」と思うようにしましょう! ちなみに映画『フレンチアルプスで起きたこと』 の家族は、映画の最後にまた、ある災難に巻き込まれます。そして「恐怖」を覚え、今度は妻が本能の赴くままに行動してしまい、ちょっと「しまった!」と思うのです。でも本能の赴くままに行動することは、ときには悪くありません。監督はこう語っています。 「社会的に被っていた仮面が剥がれることで、彼等は強い連帯感を共有することになるからです」
仮面が剥がれて別れるカップルもいるけれど、お互いに仮面が剥がれて弱点をさらして理解しあえることもあるのです。長く続く夫婦はそんなプロセスを乗り越えているのかもしれませんね。 |