ペヤンヌマキさん 「ペヤングマキ」名義でAV監督としても活動する脚本家・演出家のペヤンヌマキさん。彼女が主宰しているのが、女性だけで集って愚痴や自慢をぶちまけまくる飲み会が発端の演劇ユニット「ブス会*」だ。毎回違うキャストで女の実態を様々なアプローチで炙り出すその世界観は、2010年の旗揚げ以降、業界でも強烈な存在感を放っている。 AV撮影現場の控室を舞台に、5人のAV女優たちが年齢を重ねることに葛藤しながらもそれぞれの生きる道を模索する姿を描いた群像劇『女のみち2012』(2012年上演)。同作品を、3年前と同キャストで再演する第5回ブス会*『女のみち2012 再演』が5月22日より東京芸術劇場で上演される。 今回はペヤンヌさんに、ブス会で描き続けているものやAVと演劇の両立などを伺った。 男性の無意識な思考にもアプローチしたい――「ブス会*」の公演は今回で5回目ですが、今までのお客さんの反応を教えてください。 ペヤンヌマキさん(以下、ペヤンヌ):お客さんの割合は男女半々くらいですが、男女で反応が違いますね。見方も違うというか。 女達が集団になった時の人間関係や相手によって見せる顔の違いなどを描いた群像劇だと、女性はそれぞれのキャラに自分を当てはめたり、リアルなものとして共感して胸が痛くなったりして面白がってくれる反応です。男性も「面白い」とは言ってくれるんですが、それが「女がなんか一生懸命やっている」ことの“滑稽さ”に笑っているみたいなんですよね。 ――第4回公演『男たらし』(演劇界の芥川賞とも言われる「岸田國士戯曲賞」ノミネート作品)は、女の群像劇ではなく、複数の男(ゲス)に女1人の話でしたが、その時も男女で反応は違いましたか? ペヤンヌ:全く違いましたね。男との関係性における女の特質もですが、特に女から見た男の嫌な部分を書いたのですが、男性のお客さんからは「出ていた男性、全然ゲスくなくてみんな良い人じゃん」という感想だったんです。 それで、「あ、男性はそういうのが無意識なんだな」という発見があって愕然としました(笑)。仕事ができる女に対して「あいつ可愛くないよな」となる男など、男性のすごくリアルで嫌な部分を描いたら、女性は「こういう嫌な目にあったことある!」と共感してくれたけど、男性はそこに気付いてくれなかった感じですね。 ――なるほど。ペヤンヌさんご自身も仕事においてそういったご経験があるのでしょうか。 ペヤンヌ:もちろんそういうタイプの男性ばかりではないですし、「女にしかわからない!」「男はこうだ!」と分けたくはないのですが、男性の仕事における女性への嫉妬を感じる機会は多いですね。 何もできない新人ADの時はすごく可愛がられましたし、エロイ目でも見られました。何倍か増しで可愛く見られたと思います(笑)。その時は「なんかモテだした!」としか思わなかったんですけど。今、年齢や監督や主宰の立場でたくましくなったのもあって、「あいつ可愛くなくなったよな」という、あの時可愛がっていた男性からの反応を見ましたね。女として見られない感じ。 男同士だと認め合うのに、女は認めたくない人も中にはいて、そしてその思考自体に本人は気付いていないのかなと。指摘されたくないのかもしれませんが、その男性の無意識な部分をどう気付かせるように描くのかというのは模索中ですね。 演劇とは違う世界で色々な人を見てきたからこそ自分を客観視できた――ペヤンヌさんはAV監督としてもお仕事をされていますが、業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。 ペヤンヌ:演劇は大学時代からやっていたのですが、大学卒業後にバイトを探していた時にたまたまAV制作会社のスタッフ募集が目に止まったんです。「なんか面白そうだな」という興味で入ったらそのまま社員になり、その流れで監督もやるようになりました。もともと人に興味があったので、色々な人に出会えそうな世界だなという好奇心でしたね。 ――AVと演劇で描かれるものは全く違うと思いますが、両立されていて良かった点はありますか。 ペヤンヌ:1つの場所だけにいるより、いろんな場所に行った方が行き詰まらなくて済むし、楽しいと思いますね。私はAVと演劇を交互にやっているのが自分のバランス的に良いんだと思います。AV業界に行く前は、本当に視野が狭くて、とにかく演劇を作りたい、認められたいという自己顕示欲だけが空回りしていました。 だけど寄り道したことで自分の強みや双方の面白さを客観視できました。ずっと演劇だけやっていたらなかなか今の芝居は作れなかったと思います。 ――先日は、OLでありながらラップユニットとして活動するカリスマドットコムさんを取材しました。1つのことだけではなく、2つのことを互いに良い影響を与え合いながらやっている女性は増えているんですね。 ペヤンヌ: その方が今の時代に合っていますよね。もう今は、なかなか1つのことだけというのは行き詰まる。それは別に逃げではなく賢い選択であって、良い感じで相互作用すると思います。本業とは別の特技や経験がある人って人間的に幅があって魅力的なんですよね。 だから、やりたいことで行き詰まったら、諦めて辞めなくても、なにか別の選択肢も同時に考えてみるのはすごく良いことだと思いますね。 ネガティブは気持ち良い だからこそ、それを良しとしないことが大事――それでは、女を描き続けてきたペヤンヌさんが思う「いい女」とはどんな女でしょうか。 ペヤンヌ:やっぱり「前向き」な女ですよ。ネガティブは自らを悪い方向に導いて自分をダメにしちゃう。「私なんか」って謙遜かもしれないけど、本当に「私なんか」な私になっちゃいますよね。言霊ってありますから。 私はもともとネガティブなんですが、プラス思考じゃないと生き延びられないと改めて思います。絶対にマイナスな思考が芽生えては来るんですけど、極力、プラスに変換させています。もう無理やり笑うみたいな物理的な方法も有効です。 ――ネガティブは本当にダメということですね。 ペヤンヌ:自然にネガティブになってしまうのはしょうがないんですけど、それを良しとするのが一番良くないと思います。そうなると、年を取るごとにブスになりますよね(笑)。 ネガティブって気持ち良いんですよね。「私なんかどうせ」となれば、今の自分を変えなくて済むから楽ですし、誰かから慰めてもらえる。でもそういう思考になった時って、絶対人間関係がうまくいかない。そんな人、誰もかまいたいと思わないですしね。だから本当に大事なのは「ネガティブにならない」ということより、「ネガティブで気持ち良い状態にならない」ということですね。 誰でも年取るんだから、どう別の価値観を出して打ち勝っていくか――今回の公演のチラシは、「すべての賞味期限切れの女たちに捧ぐ」というメッセージが印象的ですが、女性にとって若さとはやはり絶対的価値だとお考えでしょうか。 ペヤンヌ:世間的には女は若い方が良いのかもしれないですけど、言いたいのは「違う価値観があるよ」ということですね。女は年取っていくと焦るけど、円熟味や技術、人間力など、別の価値観を見出して生きていくしかない。でもそれは諦めとかではなく、誰でも年取るんだからそっちの方が前向きでいいじゃんということなんです。 「もう自分は若くないかも」と思い出した時に、若くて活きの良い脅威が出てきたらやっぱりものすごく焦りますよね。そこにどう打ち勝っていくかというのは今回の芝居でも描いています。 ――最後に今回の舞台の見どころを教えてください。 ペヤンヌ:AVでも演劇でも女優同士のいろんな関係性がありますけど、OLや女子高生の世界でも同じような人間関係がありますよね。今回はAV女優を描いているんですけど、皆さんが自分の身近な世界で置き換えてくれたら共感できて面白いと思います。 また今回は劇場のサイズが大きいので、女の実態をより俯瞰して見られると思いますよ。 |