人間としての道理から外れてしまった人。そのような人たちは、ときに侮蔑的な意を込めて“クズ”と呼ばれることがあります。ほとんどの人は「クズだと思われたくない」と思いながら、自分を律して生きているものです。 そうした品位の高い生活を良しとする世の中に一石を投じるべく開催されたのが、「クズ養成講座」。5限にわたる講義は、ギャンブル、借金、酒にタバコと、クズ能力を高めてくれそうな内容のオンパレードです。 講座の対象は、「クズになりたいけど周りにクズがいない」、「どうやったらクズになれるのか分からない」、「クズな男性を理解したい女性」というクズ初心者。どのような講義が行われるのか、実際に講義を受講してみました。 パチンコ・スロット初心者は、絶対近所のお店に行くのがおすすめ晴れ晴れとした青空が広がる5月30日、講座が開かれたのは、親子やカップルで賑わう後楽園すぐ近くの研修施設。20名近くの受講生のなかには女性の姿もちらほら見受けられます。 朝10時半からスタートした1限目のテーマは、「パチンコ・スロット」。担当するのは、今回の講座を企画した株式会社ハイの社員でもある、上野達也先生。 まずは、パチンコ・スロットの店選びから学んでいきます。 「初心者の皆さんは、絶対近所のお店に行くことをおすすめします。パチンコ・スロットにハマるためには、反復して身体に教え込むことが大事です。店(ホール)を選んだら、次は機種選びですが、ポイントは好きなアニメやアイドルなど趣味に合う機種を見つけること。興味が持てない機種で打つと苦痛になってきます」 続けて、打ち方や用語を詳しく解説。また、「パチンコ・スロットをやるなら、“なりわい”になることを目標にして欲しい」ということで、お店によって異なるというパチンコ玉の換金率は、1玉4円、パチスロなら1枚20円のものをおすすめ。ちなみに、“飛行機のプロペラが回る目の前に立っているのと同等”だというホールの音量ですが、ハマりはじめるとそれすら心地良く感じてくるのだそう。 マージャンとはどれだけ騙しあえるか、相手の出方を読めるかが勝負2限目は、ギャンブルのなかでも難易度高めのイメージがある「マージャン」。講師は、元プロレスラーという経歴を持つ、マージャン愛好家の鈴木秀尚先生。 「最近は、ボケ防止にマージャンをスポーツの一種として楽しもうという風潮がありますが、皆さんには賭博であるということをしっかり理解してもらいたい」と鈴木先生。まずは、マージャンの基礎である「牌(ハイ)」と「役」の解説から。 「マージャンは、『女』(牌)を14人(個)集めて、『ハーレム』(役)を作ると覚えましょう」と何ともクズらしい暗記方法です。それぞれの牌を特定の人種や職業の女性に例えたりしながら、役のレベルと換金額などを学んでいきます。 また、マージャンの魅力について、鈴木先生は次のように語ります。 「戦後復興期を舞台に、1人の青年がマージャンを武器にのし上がる『哲也』という漫画があります。そのなかで、主人公・哲也が師と仰ぐ天才玄人(バイニン)・房州さんが死ぬ間際に残した言葉があります。『つみこみこそ芸術だ』。ここでいう『つみこみ』とは、『いかさま』のことです。マージャンとはどれだけ騙しあえるか、相手の出方を読めるかが勝負のゲームで、ビジネススキルの高さにも通じると思います」 お金を借りるときは人の心理につけこんで少額から始める続く3限目は「競馬」の講義。単勝・複勝・ワイドなど、様々なタイプに分かれる馬券の買い方や、細かすぎて初心者はどこを見ていいか分からない競馬新聞の見方を学びます。また、過去に行われた3レースの勝敗を競馬新聞から予想。受講生のなかには、3レースとも当てる強者も。 4限は、ギャンブルから離れて、「友人からのお金の借り方」を学びます。一気にクズ度がアップします。講師は雀荘に住んでいるという金田借男先生。 「クズの思考は、基本的に『暇であること』からスタートします。暇だから飲みに行きたいけどお金がない、それならパチンコで稼ごう、それですったらお金を借りようというかたちです。今これがしたいという考え方なので、とても刹那的な生き方をしています」 友人からお金を借りるメリットは、利子がないこととコミュニケーション力がアップすることだと金田先生はいいます。講義のなかでは、クズならではのコミュニケーション術の解説も。 「お金を借りるときに難しいのは、お願いの仕方です。効果的なのは、面倒じゃない要求からはじめる“ローボールテクニック”。たとえば、100万円借りたいとして、最初から100万円を要求するのではなく、最初は10万円からお願いします。10万円貸してもらえることになったら、やっぱり100万円が必要だと伝えます。人は一貫性にとらわれる習性があります。なので、貸すことを決めたら、金額があがったからといって貸さないことに一種の心地悪さを感じてしまうのです」 人の心理につけこむ、まさにクズらしいテクニックです。 最後の5限目は、「酒・タバコ」の授業。歴史やメリットについて講義を実施。飲酒はドーパミンやセロトニンという、人をストレスから解放する脳内物質の発散を促進させ、タバコはコミュニケーションツールとしても役立つとのこと。 クズならではの趣味や思考についてみっちり学んだ約5時間。予備校の人気講師に引けをとらない先生たちの分かりやすい講義に、時間があっという間に過ぎました。 人生にはある程度遊びがあった方が面白いんじゃないかそもそもなぜクズ養成講座を開催しようと思ったのでしょうか? 講座を企画し、1限目の講師も務めた上野達也さんに、話を聞きました。 「最近、若い人たちって意識が高くてクリーンなタイプが多くて、昔にくらべると遊ばなくなったという話を耳にする機会が増えてきました。確かに、飲み会が嫌いだったり、ギャンブルも敬遠する子たちが多い印象です。ただ、人生にはある程度遊びがあった方が面白いんじゃないかと思い、今回“クズ”という言葉を借りて、講座を開催することにしました」(上野さん) ちなみに、もしクズのダメンズに出会ってしまった場合、女性はどのように接すればいいのでしょうか? 「クズというのは、周囲と未来を考えずに行動する人種だと思っています。ダメなところも大らかに包んであげて欲しいですね。『休みの日にパチンコばっかり行って!』と怒るのではなく、『私は買い物に行ってくるね』みたいな、自分は自分、彼は彼という距離感で接してあげるとクズ男も嬉しいと思います」(上野さん) また、4限目の講師・金田借男さんは「クズは周囲の優しさに助けてもらって成り立っている」といいます。 「そもそもクズって根は優しい人たちだと思うんです。ただ、やり方がクズというだけなので、やっぱり可愛らしさも感じてもらえたらなと。心の中では、もちろん申し訳ないなと思ってるんです。パチンコだって彼女に美味しいモノを食べさせてあげたいっていう気持ちは絶対あると思うので、期待しすぎずに付き合ってあげるといいのではないでしょうか」(金田さん) クズを正当化、否定する訳でもなく、ただただクズの実態を客観的に学ぶことができた同講座。クズというレッテルを貼って見下すのではなく、特有の世界観を理解し、歩み寄ることで自分自身の視野と人間関係の幅も広がるのかもしれません。 |