ペットも家族の一員という感覚がごく当たり前になった今の時代、人間だけがなると思われていたメンタルの不調が、犬や猫にも現れるケースが増えているそう。2014年に日本初のペット向け心療内科を開設した、獣医のいるアニマルケアサロン・フローラの院長・中桐由貴(なかぎり・ゆき)さんに、ペットのメンタルケアについて聞きました。 ??メンタルケアに重点を置いた病院をオープンしようと思ったきっかけを教えてください。 中桐由貴さん(以下、中桐):もともと、一般的な西洋医学の動物病院の勤務医でした。そこで出会ったのが、薬だけでは治らないペットたち。一瞬治ったけど再発を繰り返し症状が慢性化して毎日のように通院してくる子、健康診断で異常はないのに元気がない子、そして薬に頼りきりの子、そんな子たちが多いなと感じました。 そんな、「薬では治らない」つまり、メンタルが原因の病気を治す場所を作ろうと思ったのがきっかけです。 ??慢性的な症状にはどのようなものがありますか? 中桐:まずは、下痢や吐き気などの胃腸障害。この症状は様々な原因で起こりますが、ストレスにより起こることが多いように感じます。また多く見られるのが脱毛。「なんとなく毛が薄いような気がする」くらいから、「はっきり円形に脱毛している」まで、毛や皮膚の異常にもストレスが深く関わっています。 他には、全体的に元気がない、ボーっとしている、目がうつろでどこを見ているかわからない、などの症状でしょうか。 そういった症状で一般的な病院に行っても、下痢なら下痢止めと整腸剤を渡されるだけだし、血液検査で「異常なし」で終わり。たとえ原因がストレスだとわかっていても、獣医師にそれを治療する術がないんですね。 ??そんな八方ふさがりの状態で駆け込むと、どういった治療をしてくれるんでしょうか? 中桐:診察して、ストレスが原因だとわかると、もっと深く知るためにペット・カウンセリングをお勧めします。まずは飼い主に日々の生活について聞いた後、アニマルコミュニケーターさんに入ってもらいます。 ??アニマルコミュニケーターとは? 中桐:ペットの気持ちを聞き出してくれるプロですね。「飼い主だけでなく、ペット自身からも話を伺える」というのが、うちの独自療法です。でも、それを前面に押し出してしまうとスピリチュアル色が濃くなってしまうので、基本は獣医が診断し、心理的要因についてはコミュニケーターさんと一緒に解決していく、というスタイルでやっています。 ??どのようにペットと話すんでしょうか? 中桐:面と向かって語りかけます。すると、じっと彼女の方を見て瞬きしたり、「ワンッ」と鳴いたり。「◯◯なの?」と聞くと、「うん」と首を動かしたりすることもあります。 ある時は、「ごはんを変えましたか? わんちゃんから、『前のごはんがよかった』という感じが伝わってきましたよ」と言ったことがあって、私も飼い主さんもびっくり。私は食事のことを診察で聞いていなかったし、飼い主さんも、「そうなんです! なんでわかったんですか!?」と。このすごさは、実際に見た人じゃないとわからないと思います(笑)。 ??特にストレスを受けやすいペットは? 中桐:もっとも人間と暮らす時間が長く、絆が深い、犬ですね。飼い主さんが家族と不仲だったり、忙しすぎていつもぐったりしていたり、赤ちゃんが産まれたり、飼い主さん自身がストレスを感じていたり……そういう環境から影響を受けやすいんです。犬だけでなく動物は、人間なら気づかないレベルのほんの少しの変化もストレスに感じます。物の位置が違う、帰宅時間が少し遅い、といったレベルです。 ストレスを感じ始めると、落ち着きがなくなる、自分の体の一部をずっと舐め続ける、ぐるぐる回り続ける、ムダ吠えが多くなる、変な場所で排泄をするなどの行動がよく見られます。飼い主のみなさんは、そういった変化をよく見てあげてください。 ??家でできるストレス軽減法はありますか? 中桐:おかしいなと思ったら、まずは呼び寄せ、スキンシップしてあげてください、5?10分でいいんです。ふたりきりの落ち着いた時間を作ってあげましょう。すると、「毎日、こういう時間を作ってくれるんだ」と安心に繋がりますから。あとは、外出する前に「◯時までに帰ってくるよ」と約束してあげるのも効果的です。それで約束の時間に帰ってきたら、「約束通りに帰ってきた!」と、安心します。 ??今後、メンタルケアに重きを置いた病院は増えると思いますか? 中桐:そうですね。うちとは形態が違っても、ストレス要因を重視して治療する病院は増えると思います。現にうちは、ありがたいことに口コミで患者さんが増えていまして。気軽に遊びに来てくれる方もいらっしゃって、楽しいですよ。 |