不妊といえば、「女性の問題」というイメージがいまだにありますが、WHO(世界保健機構)のデータによると、不妊の原因が男性にある場合が24%、男女双方にある場合が24%、女性に原因がある場合が41%、不明が11%*。つまり、不妊の原因の約半数は「男性側にある」ということ。 実はかなりの数に上る「男性の不妊」について、不妊体験者を支援するNPO法人Fineの理事長・松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに聞きました。
「恥ずかしくて誰にも相談できない……」――不妊原因の48%が男性側にあるのに、不妊といえば、まだまだ「女性の問題」というイメージがあります。 松本亜樹子さん(以下、松本):はい、まだまだ「不妊=女性の問題」と捉えられがちで、「男性にも原因がある」という事実があまり浸透していないですね。 ここ数年で「男性不妊」という言葉がメディアで使われるようになり、だんだん注目されるようになりましたが、まだまだ男性不妊専門のクリニックは日本に少ないですし、専門の相談窓口もほとんどなく、受け皿が限られているのが現状です。 ――松本さんのところへは、男性不妊の当事者の方々からどのような相談が寄せられていますか? 松本:以前は匿名の電話相談が多かったものの、最近は直接面談にいらっしゃる方が増えてきました。内容としては、「自分は治療に気が進まないが、妻から懇願されて……」といった治療に対する夫婦間の温度差や、「治療をしたいと思っているが、どこへ行けばいいかわからないので教えてほしい」といった相談、また「検査の結果が悪くて落ち込んでいる。とにかく誰かに話を聞いてほしい」というものまでさまざまです。 ただ、男性の場合、親にも友人にも誰にも相談できず、どこにも吐き出し口がない……という人は非常に多いですね。男性不妊とは、当事者にとって大変デリケートな問題なのです。 「不妊」は男性にとって存在否定――というのは? 松本:まず知っていただきたいのは、「男性不妊」とは私たちが考えているほど軽いものではないということ。男性にとって「あなたの生殖能力は低い」と知らされるのは、存在そのものを否定されるほどの衝撃なんです。 松本:もちろん、女性の不妊を軽んじるわけではありませんが、これまでの経験上、ダメージレベルとしては、男性の方が何十倍も大きいように感じます。「愛するパートナーを妊娠させることができない」というのは、男としてのプライド、自尊心をペシャンコに潰されてしまうようなつらい事実なのです。 ――そうでしたか…。そうなると、「検査を受けるのが怖い」「治療に足踏みしてしまう」という男性の気持ちもわかる気がします。 松本:本当にその通りです。しかし男性がズルズルと不妊検査を先送りしている間に、女性の年齢がどんどん上がり、妊娠しにくくなってしまうという問題もあります。回り道をしないためにも、なるべく早いうちに夫婦一緒に検査・治療をスタートすることが大事です。 男性不妊にもいろいろある――ただ、男性不妊といっても軽度なものから重度なものまでさまざまです。 松本:まったくその通りなんですが、その「幅」がよく知らされていない。メディアでは、男性側の不安感をあおるような形で取り上げられることが多く、どうも偏った男性不妊のイメージがひとり歩きしている感が否めません。 男性不妊は決して珍しいことではありませんし、今は治療法もかなり進んできています。また生活習慣の改善など、自分の努力で続けられる予防もあります。「不妊という結果を突きつけられるのが怖いから」と何もしないまま時間が経過してしまうのは、男性本人にとっても、パートナーにとってもつらいもの。みなさんには、正しい知識と意識をできるだけ早く持っていただきたいですね。 (江川知里) 松本亜樹子(まつもと・あきこ)NPO法人Fine理事長。一般社団法人日本支援対話学会理事。長崎県長崎市生まれ。コーチ、企業研修講師、フリーアナウンサーとして全国で活躍。2004年、NPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜(http://j-fine.jp/)を立ち上げる。自身の不妊の体験を活かして『ひとりじゃないよ!不妊治療』(角川書店、共著)、『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)を出版。 |