「不妊治療のウソ・ホント」をテーマに書いているこの連載ですが、実は自然妊娠にもあまり知られていない落とし穴が。今回は、長年、妊娠・出産について取材し続けてきた私が「?」と首を傾げたくなる、ちょっとおかしい日本の妊活についてです。間違った方法でトライし続けていると、かえって妊娠を遠ざけてしまうことも……。 ムダな努力はすべてやめる自分の基礎体温表をにらみながら、「一番妊娠しやすい日」を探そうとする。牛肉、トマト、ニンジンといった赤い食べ物は妊娠しやすいと聞いたら、そればかり食べる。セックスのあとに逆立ちをする。 妊娠関連の情報サイトや雑誌には「妊娠するためのコツ」がいろいろと掲載されているので、つい熱心にやってしまう人は多いことでしょう。でも、情報に振り回されてげんなりしているなら、それらはすべてムダな努力です。今日からスッパリ止めてしまいましょう。 現代はとかく情報があふれていて、あれがいい、これがいいと数え切れないほどの方法が紹介されていますが、本来、妊娠とはそんな努力を必要としないほどシンプルなもの。卵子と精子が日々、繰り返し出会っていれば、そのうち成立するはずなのです。 なかなか妊娠しない場合は医師にかかる必要が出てきますが、まずは夫婦だけでトライする場合の方法を考えてみましょう。あなたが今まで読んだり聞いたりしてきた話とは違うかもしれませんが、私が第一線の専門医たちに取材を重ねてきた経験からわかったことを次に挙げていきます。 「排卵日」にこだわらないこのグラフを見てください。 このグラフは、自然妊娠の確率をセックスのタイミング別に調べたもの。報告によると、妊娠に至ったセックスは、その大半が「排卵日の5日前から排卵日までの6日間」になされていました。 妊娠のチャンスは1週間弱もあるのですから、特定の1日にこだわる必要はありません。みなさんの中には「一番妊娠しやすい日は排卵日」と思い込んでいた人も少なくないのでは? このグラフによると、一番妊娠しやすい日は排卵日の2日前となっていますし、3日前、4日前でも妊娠率はかなり高くて排卵日の値を上回っています。 そもそも排卵日は基礎体温表をにらんで予想しても前後にずれてしまう場合が多いと言われています。妊活にはマストとされている基礎体温計測も、絶対に必要というわけではありません。特定の日にこだわるのは不自然ですし、男性もプレッシャーを感じますから、妊娠可能日はざっくりと捉えた方がいいでしょう。 セックスの回数は抑えてはいけない妊娠したい人は、妊娠可能な期間に頻繁にセックスをした方がいいでしょう。身も蓋もないアドバイスに聞こえるかもしれませんが、今はあっさり型のカップルが多いようですし、日本の妊活には「回数が多いと精子が減るので、排卵日以外は禁欲する」という常識があるので、ここはあえて書かせていただきます。 確かに昔はこの禁欲説があり、排卵日のために男性に禁欲を勧める場合もあったようですが、今では逆効果であることがわかっています。 精子は精巣で毎日作られ、精巣上体(精子の貯蔵庫)に送られたのち、10日間くらい生きています。禁欲すれば精子の貯えが増えるということで、かつては禁欲を指導する専門家もいました。でも、最近の研究で、古くなった精子は運動率が下がり、活性酸素を出して貯蔵庫の環境も悪くすることが明らかになりました。 ですから、むしろ無理のない範囲で回数は増やした方がいい、というのが男性不妊の専門家の一致した意見です。 排卵テスターに頼りきりではもったいないここ数年で妊活アイテムとしてずいぶん普及してきた排卵テスター。排卵テスターとは、排卵の引き金を引く黄体化ホルモンを捉える検査です。尿をかけるだけで手軽なので、このテスターを使って排卵日を見きわめようとする人は多いようです。ところが、ここにも落とし穴が。 実は、黄体化ホルモンは排卵の36時間前から出始めるホルモンなので、テスターが反応する期間は、妊娠可能な6日間の終わりの方だけなのです。テスターの反応が出る以前にも妊娠のチャンスは数日間あるわけで、排卵テスターだけに頼るのはもったいないかもしれません。 「排卵日にセックスしなきゃ」というプレッシャーが蔓延している日本の妊活。実は、妊娠のチャンスは毎月6日もあるのです。もっと気持ちをラクにして、自分の気分や身体のサインも上手に読み取りながらトライしてみてはいかがでしょう?
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