不眠症
私たちの体は朝、目覚め、夜に眠るという睡眠リズムが備わっていますが、そうした睡眠のリズムが障害されて、眠れなかったり、眠りが浅くすぐに起きてしまったり、朝早く目覚めてしまうのが不眠です。そして、こうした不眠症状がテスト前、旅行中などの一過性ではなく、継続的に続く場合を、不眠症と言います。 不眠症を治すために最初に行うことは、不眠が起きている原因を取り除き、眠りに就きやすい環境を整えることです。それでも眠れない場合は睡眠薬などを使って眠りをうながしていきます。
漢方と不眠症の関係
漢方の古典『金匱要略(きんきようりゃく)』には、「疲労虚煩わして(わずらわして)眠るを得ず」という場合に、酸棗仁湯(さんそうにんとう)という漢方薬を用いると記載されています。これは一つの例で、後の表にも出てきますが、このほかにも不眠に用いる漢方薬はいくつかあります。
漢方医学の考え方には「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。そこで「気」の流れが滞って眠れない場合は気の流れをスムーズにする処方を、イライラして眠れない人には気分を落ち着かせる処方をというように、不眠が生じている背景を考慮した薬が処方されます。 このように、漢方薬は睡眠薬と違って、直接的に睡眠を誘発するようなはたらきは持っていません。むしろ不眠が起こる原因を解消することで、眠れるようにしていくことから、より自然なかたちで睡眠に導いてくれます。実際は実証、虚証などを考慮して用いられる漢方薬が決まります。
不眠治療に用いられる漢方薬の例 実 証・・・大柴胡湯(だいさいことう)・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)など 虚 証・・・加味帰脾湯(かみきひとう)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・帰脾湯(きひとう)・酸棗仁湯(さんそうにんとう)・抑肝散(よくかんさん)・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)など
気のめぐりをよくし、血流を整えるのが目標
漢方では、気(形はないが、一種の生命エネルギーと考えられるもの)、血(血液)、水(体液)が体内をめぐることによって、健康が維持されると考えられています。では、不眠についてはどう解釈されているのでしょうか。
「まず、気の異常が考えられます。不眠は気逆といって、気の上衝(気が逆流して頭部にのぼること)によるもの、気うつ(気のめぐりの滞り)によるものが原因となっています。また、血の異常であるお血(血液循環の停滞)、血虚(貧血)も関係しています」 ストレスがたまり、イライラが高じることによって、気逆、気うつ、お血、血虚などが起こり、それが不眠を招くというのが、漢方の考え方です。 「ですから、気のめぐりをよくすること、血流を整えることを目標に漢方薬を処方していきます」 |