球技やかけっこが大の苦手で、スポーツへの苦手意識から、大人になっても激しい劣等感が根強く残ってしまうケースは少なくない。 ところが、今、年齢や性別、あるいは障がいの有無にかかわらず、こぞって楽しめる注目のスポーツがあるのだ。それこそが、「ゆるスポーツ」。イモムシウェアを装着して転がったりほふく前進をしたりする「イモムシラグビー」、ゾンビのお面をかぶってサッカーをする「ゾンビサッカー」など、身体能力やスキルに関係なく楽しめる一風変わったスポーツが続々考案されている。
ゾンビサッカー 今回は、「『障害者は逆にモテる』半身不随男性が語る、ブランディングとしての身体障害」でご紹介した沼田尚志さんを交えて、「世界ゆるスポーツ協会」代表・澤田智洋さんにお話を伺った。 「親子二代ともスポーツを楽しめない」という地獄から始まった澤田智洋さん ――「ゆるスポーツ」、通称「ゆるスポ」を開発したきっかけはなんでしょうか? 澤田智洋さん(以下、澤田):きっかけとしては、主に2つあります。まずは、T君の存在。 ――T君…? 澤田:はい(笑)。小学校の頃の同級生で、足が速いというだけでモテモテな男の子がいたんです。一方、僕はスポーツが物凄く苦手で、当然の如くモテませんでした。 誰も見ないような学級新聞を教室の隅で勝手に作っていて、ふと窓の外を見ると、T君が女の子からキャーキャー騒がれている。その時、彼と僕の間に強固な境界線を感じて、11歳にして既に人生を諦め始めましたね(笑)。「僕はもう、あっち側へには行けないんだ」と。22年前の出来事なのに、未だに根に持ってるんですよ(笑)。 ――確かに、子どもの頃は運動ができる子がヒーローですよね。 澤田:僕は海外在住経験があるのですが、日本だと特に「スポーツができないと人としての尊厳が踏みにじられる」と感じています。僕は、つまはじき者になったトラウマから、「自分はダメな人間なんだ」と今でも思っています。 それを生涯抱えて生きていくのはイヤだな、成仏させたいな、と感じていました。 視覚障がいを抱えた息子の存在沼田尚志さん(以下、沼田):もうひとつのきっかけは、お子さんのことですよね。
沼田尚志さん 自身も右半身に障がいをもっている 澤田:ええ。今、息子が3歳なのですが、視覚障がいでほとんど目が見えていないんです。息子が生まれるまで、僕の周囲に障がいを持っている人がいなかったので、最初は「どうしてこんな目に遭うんだ」と怒りや悲しみを覚えました。それを乗り越えた時にぶつかったのは「どうやって子育てしていけばいいんだ?」という疑問です。 文献をひっくり返しても197o年代の発行だったりして、内容が古い。「これは知識のある人に会うしかない」と考えて、障がいを持っている人や、障がい者を雇用している企業の人にとにかく会って会って会いまくって、たくさん話を聴きました。2ヶ月で100人以上訪問しましたね。 それで、恋愛や就職などに関しては子育てマニュアルがそろってきたんですが、スポーツにまつわるものだけはなかなか埋まらなかったんです。息子と公園に行っても、やれることがない。親子そろってスポーツに悩まされていたんです。だったら、「新たに創ればいい」と思い立ちました。 「スポーツができない人」の市場は意外に大きい澤田:転換点になったのが「バブルサッカー」との出会いです。大きな泡の形状をしたかぶり物を装着して、相手を弾き飛ばすゲームなんですが、ノルウェー発祥のスポーツで、発見した2013年時点ではまだ日本に入って来ていませんでした。 「コレだ!」と思いましたね。「T君に足の速さで勝てないなら、弾き飛ばせばいい!」と(笑)。早速、2014年に「日本バブルサッカー協会」を立ち上げました。そうしたら、一年間でだいたい5万人くらい参加してくれたんです。 バブルサッカー 驚いたのは、そのうちの大体4割くらいがスポーツに苦手意識を持っている人か、もしくは「昔はやっていたけれど今はほとんどやらなくなったという人」だったということです。 障がい者や高齢者の方も含めて、「スポーツできない人の市場」というものを想像してみると、もしかしたら凄く大きいんじゃないか、という考えに至ったんですね。「じゃあ、バブルサッカーみたいに、身体能力が関係ないスポーツをもっと劇的に作ろう」ということで、2015年4月に「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。 沼田:僕も、昔は野球をやっていて女の子からキャーキャー言われていたんですが、障がいで運動能力を奪われてから、スポーツが大嫌いになりました。好きだったからこそ、できないことが歯がゆくて。でも、「バブルサッカー」のような競技であれば、右半身不随の僕であってもできる訳じゃないですか。 「ゆるスポ」は、僕にとっていわば救世主なんです。誰でも楽しめるスポーツを創るというのは、凄く価値のあることですね。 澤田:現在は250人がメンバーとして参加しています。学者もいれば、プロのアスリートもいれば、障がい者もいる、多種多様な団体ですね。50種目ほど開発していまして、アイデア自体だと3000くらいあります。 昨年だけで、のべ5000人くらいの人が「ゆるスポーツ」にトライしてくれました。おそらく、世界で一番スポーツを開発している団体ですね。 |