「『障害者は逆にモテる』半身不随男性が語る、ブランディングとしての身体障害」の沼田尚志さんを交えて、「世界ゆるスポーツ協会」代表・澤田智洋さんにお話を伺うインタビュー後編。 「イモムシラグビー」や「ゾンビサッカー」といった、普通のスポーツのイメージを覆すスタイルでメディアから続々取り上げられている「ゆるスポーツ」。誰でも楽しめるスポーツが次々生まれることによって、いったい世界はどのように変わっていくのだろう。後編では、「ゆるスポ」の今後の展望について聞く。 【前編はこちら】イモムシラグビー、ゾンビサッカー…“老若男女健障”が楽しめる新しいスポーツ「ゆるスポ」って?
「仲間外れをつくらない」がひとつのコンセプト――「ゆるスポ」を創る際のコンセプトはなんでしょう?
澤田智洋さん(以下、澤田):ひとつは「老若男女健障」。つまり、年齢、性別、障がいの有無にかかわらず「誰でも楽しめる」「仲間外れをつくらない」ということです。 僕らのもとには、日々、新しい課題が舞い込んできます。ゆるスポーツは、その課題を解決するための「ソリューションツール」です。 たとえば「スポーツ格差」。これは実は大きな問題で、僕がT君に負い目を感じたように、スポーツが苦手なために肩身の狭い思いをしているという人は少なからずいます。それは地獄じゃないですか。ですから、運動神経が関係ない種目を創るんです。 人気なのは、「ベビーバスケット」ですね。独自開発した、激しく扱うと泣き出すボールを赤ちゃんに見立てて、優しくパスしあうバスケです。これには、「ボールスピードを落とす」という前提条件があります。ボールの速度が落ちれば、運動能力は無関係になりますよね。マイケル・ジョーダンが相手でも、対等にやれると思います(笑)。むしろ、上手い人ほどフェイントをかけてしまうんですが、そうするとボールが泣いてしまうんです。体験会には、運動が苦手な人も大勢いらっしゃいます。 沼田尚志さん(以下、沼田):レベルの差がなくなるんですね。 澤田:その通りです。他にも、「超高齢化社会」「地方創生」などの課題を解消できるスポーツを考案していますね。 「体を動かす」だけではないスポーツの役割澤田:僕らは、「スポーツ」を解体して、再定義しようとしています。いわゆる体育的な「スポーツ」ではなく、先ほど申し上げたような「ソリューションツールとしてのスポーツ」「薬としてのスポーツ」ですね。 実は、数年後には「スポーツ・ホスピタル」という独自の施設を運営したいなと考えています。その病院に行くと、症状に応じて、患者にスポーツが処方されるというイメージですね。スポーツは、フィジカル面の症状、メンタル面の症状、孤独だというようなソーシャル面の症状、という問題に作用すると思います。こうしたスポーツの効能を可視化するために、検証を進めようとしている最中ですね。 今、全国でスポーツ施設が有り余ってるんですよ。立派な施設が日本中にあるのにも関わらず、大きな大会で使われるくらいで、他の時期は閑散としているケースが山ほどあります。そうした場所を借りられればいいですね。 ――「スポーツを再定義する」というのは新しい視点ですね。 澤田:また、アスリートのキャリア問題というのもあって、たいていは引退すると「これから何しよう?」と困る訳です。例えば5歳から30年間ずーっと野球をやって来て、35歳で引退して、「何やればいいかな?とりあえず飲食店でもやるか」などとなるんですね。そういうアスリートをドクターにすれば、色んな課題を一挙に解決できますよね。 沼田:澤田さんは、右半身不随の僕のためにも「ゆるスポ」を創ろうと仰っていたんですが、その際、「障がいのある人でも楽しめるスポーツにしよう」ではなく「右半身が使えない人でも楽しめるスポーツにしよう」と言って下さったんですね。 僕の記事でもお話したんですが、障がい者の中でもレイヤーが違い、異なる障がいを持っているとコミットできないんです。たとえば、視覚障がいを持っている人のことは、右半身不随の僕には分かりません。ですから、「右半身が使えない」ことがネックにならないスポーツを創ろうとして下さったのは、めちゃめちゃ嬉しかったです。
沼田尚志さん 澤田:「ゆるスポ」を創る時、企業や団体の方からの依頼もあるにはあるのですが、個人の方……とりわけ障がい者の方からのお問い合わせが物凄く多いんです。
たとえば、イモムシの着ぐるみを来て、転がったりほふく前進をしたりしながらプレイする「イモムシラグビー」は、車いすの方と一緒に創りました。車椅子スポーツもあるのですが、体育館だと車椅子は「床を傷つける」という理由で敬遠されるんですよ。 体験会を開催すると、下肢に障がいのある方が多く参加されるんですが、そういう人は自宅で這う動きをしていることがあるので、イモムシラグビーで健常者に圧勝するんです(笑)。 「ウサイン・ボルトが60歳の記者に負ける」スポーツの祭典!?澤田:実は「世界ゆるスポーツ運動会」という、新たなスポーツの祭典を開催できないか、今計画しているんです。 沼田:世界ゆるスポーツ運動会!? 澤田:沼田さんのような、人生の途中で障がいを負ってしまった人も目標になるかもしれない、障がい児を持った家族も、夢を持てるんじゃないでしょうか。スポーツを通じた、全く新しい目標や夢を提供するイメージです。 沼田 スゴいこと言いますね(笑)。 澤田:例えば2020年の8月半ば頃に、メディアを含めた世界中の人に対して開催をする。健常者も障がい者も関係ないイベントとして開催できないかと構想しています。 沼田:「ウサイン・ボルトがロシアの60歳の男性記者に負ける」みたいな展開だってあるかもしれないですよね。その世界、すごく見たいです! |