漫画『わたしはあの子と絶対ちがうの』(イースト・プレス)の著者・とあるアラ子さんに、SNSでの「盛り文化」について聞くインタビュー後編。SNS上の記事や、そこで交わされるやり取りに嫉妬めいた感情を抱いてしまうのはなぜなのか? 【前編はこちら】リア充・人脈自慢…SNSで盛ってしまう自意識 『わたしはあの子と絶対ちがうの』著者が明かす ヘビーユーザーの“インターネット接待”――あと、Twitterのヘビーユーザー同士が会ったときに「今日はAさん(@Aさんのアカウント)と飲んだよ」とか投稿し合う文化がありますが、それも、「いちいちその(@アカウント)要る!?」と思います。と言いつつ私自身も過去についやっちゃったことはあるんですが……。 とあるアラ子(以下、アラ子):あ、でも、それもし自分が人にやられたらうれしいですよね。あ、私って自慢できる人だと思われているのかな? と。自慢というか、接待的な要素もあるのかもしれません。 ――インターネット接待……。 アラ子:関係性を見せることもファンサービス、のようなことでもあるのかも。AKBなどのアイドルの子がメンバー同士で写真を撮ってTwitterやインスタグラムにアップするのと同じようなものじゃないですかね。でも、自分も本の宣伝をする中で“人の目に触れる”ことのありがたさを痛感する毎日なんですよ。だから、私はそのインターネット接待、ぜひやってほしいです。「とあるアラ子ちゃん(@unmeichimai)」ってどんどん書かれたいし、そんなことで喜ばれるなら自分もどんどんやりたいですよ! ……ってなんかすごく真剣に考えてしまったけど、そもそも私Twitterのフォロワー別に多くないし、自分にはそんなに関係ない話題だったかも(笑) 承認されたい人とネットの間違った距離感――どうして人は、他人のSNSにイライラしてしまうのでしょうか? 同じ投稿でも“自慢”と捉えるかどうかはそのときの状況によって違う、というお話も先ほどありましたが。 アラ子:私の場合は、自分が人に見せたい内容を一生懸命ひねり出して書き込んでいるから、他人の投稿も鼻につくんじゃないかなと思っています。手口がありありと想像できてしまうというか。まぁ、同族嫌悪ですよね。だけど、なんだかんだ言って、ちょっと「イライラを楽しみたい」という気持ちもあるんじゃないかなぁ。本当に腹が立ってたら、とっくにSNSをやめているはずじゃないですか。 ――確かに。 アラ子:友達や知り合いの自慢や、盛り盛りの日記などを読んで、イライラしつつも「あー自分を良く見せたいのって私だけじゃないんだ」と安心しているのかもしれないです。 ――作中では、Facebookを始めたてのころ、すべての投稿にイラ立ったという描写がありましたね。 アラ子:あのころは自分の人生があまりにもうまくいっていなくて、英語で投稿している人や、料理写真をアップしている人の投稿を見ては、過剰にコンプレックスを刺激されていました。私、英語と料理が本当に苦手なんですよ。今思うと、そこまでムカつくことないじゃん、という感じですけど。 ――では、今はSNSを見てめちゃくちゃ腹が立つ! といったことはあまりないですか? アラ子:今でも、仕事で大活躍して、プライベートも充実していて、新築のマイホームを購入、子宝にも恵まれ……、とあらゆる方面で満たされている投稿を息を吐くようにすごい頻度で更新している人を見かけると、ギョエ〜〜〜! となっちゃいます。あと、最近はむしろ、SNSまったくやっていない人とか、やっていても3ヵ月に1回しか更新しないような人にも脅威を感じます。自意識の沼に首までどっぷり浸かっている身からすると、そういう人が一番まぶしい。 ――何らかで承認されたい人、満たされていない人ほどSNSに書き込んで、SNSに頻繁に投稿しない人ほど自分の現状に全方位で満足しているような気もします。 アラ子:どうでしょうね。全方位で満足していることが一度もないのでわかりませんけど、“承認”をSNSに求めすぎることで、現実とネット空間がいつか乖離しちゃうんじゃないかな、という怖さを感じることはあります。いいね!をもらうため、フォロワーを増やすため、RTされるため、とそればかりに固執しすぎて、自分のリアルからどんどん離れて虚偽の自分像を作ってしまう。 盛っているかどうか、自分でもわからないとあるアラ子さん ――実際、そういう人いますよね。RTされるために作り話をツイートする人とか。 アラ子:そこまでいってしまう人はわずかかもしれませんが、SNSを使っている人の多くが多かれ少なかれ理想のキャラクターを演じているところはあるんじゃないですかね。その距離感をうまく楽しみ続けられる人もいれば、私のように疲弊していってしまう人もいる。『わたしはあの子と絶対ちがうの』は、そういう自分を描いたマンガなので、ちょっとでも身に覚えがある人はぜひ読んでみてほしいです。 ――マンガの最後のほうでエゴサーチの話が出てきますが、実際に本が出てみて、エゴサーチはどれくらいされていますか? アラ子:エゴサーチはしていますが、それは承認欲求というよりは、純粋に本の宣伝のためにやっています。でも、「エゴサの鬼」とか揶揄してくる人が結構いるんですよね。本当にムカついて、何か一言、言ってやりたい衝動にかられるんですけど、マンガの中で「ネットとの距離がうまくとれるようになった」と書いたので、自分の中でのブレーキになっているところがあります。そう言ってしまった手前、ちゃんとネットと距離感を保っていかないと、と。 ――じゃあ、マンガを描いて本が出たことで、今では適切な距離感でネットと付き合えているんですね。 アラ子:いや、でも、わからないです。自分が「やらかしている」かどうかは、ときがたってからじゃないとわからないものなので。今でも気づかずにSNSに盛った投稿をしているかもしれないですし、もしかしたらこのインタビューの中でも自分をよく見せようと、何かを盛って喋っている可能性もかなり高いですよ。数ヵ月後に読み直してようやく気付いて「ギャー! 恥ずかしいっ!」となっているかもしれない。人間ってそんなに簡単に変わらないものですからね(笑)。
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