谷本有香さん 6月30日、日本郵政がグループ3社の株式を同時上場する本申請を東京証券取引所に行いました。実際に上場が承認された場合、私達の身近な生活にどのような影響が出るのでしょうか。現在、日経CNBCキャスターとしてご活躍中の経済ジャーナリスト・谷本有香さんにお伺いしました。 上場したら窓口での待ち時間が減る?――そもそも、なぜ日本郵政は上場申請をしたのでしょうか? 谷本有香さん(以下、谷本):2007年の郵政民営化後、2011年に東日本大震災が起き、復興財源の確保目的で郵政民営化法案の一部を改正したことが背景にあります。この改正により上場ができるようになったのですが、なぜ今このタイミングなのかというと、これまで国内から民業圧迫という批判がつきまとっていたことと、アメリカ政府からも「日本郵政のような大きな金融業は市場を開放するべき」という圧力がきたことが原因だと考えています。 ――海外からの圧力が理由とのことですが、一般利用者にとって、上場が身近な生活に及ぼす影響というのはありますか? 谷本:ルールによってがんじがらめになっていた会社ですが、上場によって事業拡大が可能となるため、消費者に多くのメリットをもたらすようになると思います。例えば、ゆうちょ銀行の限度額は現状1,000万円ですが、それが引き上げられ、かんぽ生命保険の限度額も1,300万円から引き上げられる可能性があります。 その他にも、保険商品などの拡充がされたり、禁止されていた貸付業が運用されるようになり、住宅ローンがゆうちょで取り扱われるようになったりするでしょう。もっと身近な話だと、今まで業務がお役所的なゆったり業務でしたが、上場後はもっと対応がスピーディーになり、待ち時間が少なくなるかもしれません。 上場申請が通る前に「資産運用」について学ぶべし!――では逆に、デメリットはありますか? 谷本:デメリットはほとんどないように思います。今までの日本郵政は「社会の利益になるように」という考えのもと運営されていましたが、上場後は利益重視で効率性や合理性を重視する動きになると考えられています。そのため、利益を生まない地域の店舗などが切られるのでは、と考えてしまいがちですが、グループの中でも日本郵便だけは今回上場申請を出していないので、全国一律のサービスは変わらない担保があり、サービスを受ける側のデメリットは少ないでしょう。 ――では、上場申請が通る前に、私達がやっておくべきことはありますか? 谷本:特に中華性力剤の読者層である30代前後の方には、「金融・経済リテラシーを学んでおいてください」とお伝えしたいです。というのも、日本郵政は、世界的に見ても圧倒的な資産を持っている企業で、運用資産は200兆円を超えています。今まで、その半分くらいの資産を国債で運用していましたが、安全であるゆえにリターンも少なかったんです。けれど今回の上場によって、運用しやすくなり、お金の流動性が高くなる可能性があります。 政府は「貯蓄ではなく投資をしましょう」と何十年も言い続けていますが、今でも家計の資産は主に貯蓄されています。けれど、今回の上場で、本当の意味で投資の流れが作られるのではないかと思っています。 その流れを見据えて、ぜひ読者の方には上場前に、貯蓄だけではなく自分の資産運用を考えるきっかけとして、金融・経済の勉強を始めてみて頂きたいです。 私たちが意識しておくべきことは?――日本郵政が提供する各サービスの利用者として、上場後に注意しておくべき制度の変化などはありますか? 谷本:実は、それほど大きな変化は当面はないと考えています。先ほど、上場によってサービスが良くなっていくと言いましたが、日本郵政は子会社の株をたくさん保有しています。今後それらを時間をかけて放出していくことになります。子会社は保有率が50%未満にならないと関係省庁に事業提案ができません。よって、サービスが大きく変わるというのは少し先のことになりそうです ――利用者がサービスを変えていこうと考えたら、当然株主になる必要性が出てくると思うのですが、そうなった場合、どのようなことを意識しておけばいいでしょうか? 谷本:日本郵政は大変なブランド力がある一方、以前のお役所的な体質が上場後も継続するようですと、そのブランド力を毀損していくことがあるかもしれません。その点を株主として注意深く見ていく必要があるかもしれませんね。 また、上場して稼げる体質になるためには、外部から優秀なマネジメント層や運用者を招かなければならないかもしれません。ただ、今のままでは恐らくそれは簡単な事ではありません。結果、企業体質が変わらぬままの運営が続いてしまい、株主からの失望を誘うこともあるかもしれません。 そういう事態にならないよう、見守っていくのが、株主、国民の役割だと思います。 |