夫婦の3組に1組が離婚しているといわれる現代の日本。気持ちのすれ違い、不倫、DV……離婚の理由は夫婦の数だけさまざまですが、巻き込まれる子どもにも、望まぬ転居や転校、改姓など変化にともなう葛藤をもたらします。 しかし、子ども自身にも自分の生活を主体的に決める権利はある――そうした考え方に基づいた「子どもの手続代理人」が2013年から施行されています。親の離婚調停に際して子どもの意思を反映させるため、弁護士を代理人にすることができるという制度です。 どのようなものなのか、実際に「子どもの手続代理人」をつとめた池田清貴弁護士、同制度をテーマにした東京弁護士会主催の劇『もがれた翼pt.22 家族のカタチ』に出演する福尾美希弁護士に話を聞きました。 子どもだって権利をもつ“主体”――「子どもの手続代理人」ですが、親の離婚に際してどの段階で依頼できるのでしょうか?
池田清貴弁護士(以下、池田):離婚の方法には、当人同士の話し合いで決着する「協議離婚」、家庭裁判所に申し立て、調停委員という第三者を交えて話し合いを行う「調停離婚」、調停を経たうえでも解決できない場合に訴訟を起こす「裁判離婚」の3通りあります。「子どもの手続代理人」は「調停離婚」に向けた話し合いをする離婚調停の段階で、親ではなく子どもに代理人を付けることができるという制度になります。 ――制度がスタートした経緯について教えていただけますでしょうか? 池田:日本の家庭裁判所には“調査官”がおりまして、離婚調停のときには調査官が、子どもの状況や考えを聞いたうえで裁判官に報告します。ですから、子どものためにさらに弁護士をつける必要性はないと考えられていました。 そんな中、2013年に離婚などの夫婦間の問題や、遺産分割などの手続き方法を定めた「家事事件手続法」が全面的に変わり、同時に子どもの権利にまつわる項目も見直され、裁判所が子どもに弁護士を選任したり、子どもが自らの意思で弁護士を選任することができる「子どもの手続代理人」がスタートしました。現在までに9歳から18歳くらいの子どもに弁護士が選任されたと報告されています。 ――調査官と弁護士では、子どもをサポートする際のアプローチに違いがあるということでしょうか? 池田:子どもは家庭内の紛争のなかでただ守られるだけの存在ではなく、主体的に関与する権利を持つ“主体”であるという考え方があるんです。権利主体である以上、適切な法律的援助を受ける必要がありますよね。「子どもの手続代理人」もそういう理念的なところからはじまっています。 日本では“子どもの利益を守る”という観点から、家庭裁判所が調査官を通して子どもの状況を調査していますが、あくまで子どもは保護されるべき“客体”なんですね。また、調査官は裁判所の機関ですから、子どもに対しても中立性が求められ、子どもから話を聞くことはできても、子どもの意思形成を手伝ったり解決方法を考えていくことは、立場上難しいんです。
池田清貴弁護士 「父親も母親も好きだから選べない」と迷う子どもを支える――依頼は子どもから直接受けるのでしょうか? 池田:依頼のルートとしては、家庭裁判所が子どもに必要だということで弁護士会に弁護士を推薦するよう求めるというのが多いですね。親御さんが自分に付けている弁護士に相談するというケースもありますし、子ども自身が「子どもの人権110番」という電話窓口を通して、弁護士に依頼することもできます。 ――弁護士が関与することで、子どもにどのような利益がもたらされますか? 池田:両親の離婚に際して父親と母親のどちらと住みたいか、はっきりとした意向を持っている子どもばかりではないんですね。人生で初めての経験ですし、どうしたらいいか分からない。親から「自分の気持ちに素直になっていいんだよ」と言われても、両方の親が好きだったら、なおさら決めるのが難しいんですね。 そんなときに子どもと一緒の目線に立って、「この選択をしたらこんなことがあるよね」とかこんなことが起きるよね。どう思う?」という会話を重ねながら、子ども自身の意思形成を援助することができます。もし子どもが最後まで決められなかったとしても、そういった子どもの意向を大事にするという方法もあります。 ――弁護士とのやり取りを通して、子どもにどんな変化が見られますか? 池田:子どもの変化として、まずは、落ち着きを取り戻すというのが大きいです。子どもは、時として、同居親に忠誠を尽くすために過剰に別居親のことを悪く言ったり、逆に、同居親のもとから別居親のもとへ飛び出してしまったりと、両親の間で揺れ動きます。そうした子どもが、弁護士とのやり取りを密にしていくなかで、安定していくようです。 また、子どもは、両親の思いに振り回されていた状況から、弁護士が自分の気持ちを代弁してくれて、それを踏まえ両親間の話し合いが行われるようになることを目の当たりにし、自分で自分の人生を選んでいるという実感を持つのではないでしょうか。たとえその選択が後に間違いだと思ったとしても、主体的に自分の人生を選ぶという経験は大事だと思います。 弁護士が子どもたちと劇を上演する理由福尾美希弁護士 ――「親の離婚と子どもたち」をテーマにした劇『もがれた翼pt.22 家族のカタチ』が8月22日(土)に上演され、そこには「子どもの手続代理人」も出てくるそうですが、今回のテーマを選んだ背景について教えて下さい。 福尾美希弁護士(以下、福尾): まず、『もがれた翼』は、少年事件やいじめ、虐待など子どもの人権をめぐる様々な問題を広く皆さんに知っていただくことを目的として、1994年の「子どもの権利条約」の批准を機に始まったお芝居です。出演は子どもたちと弁護士で、毎年、子どもたちをめぐるホットなテーマを弁護士たちが選び、子どもたちと一緒に演じます。劇という形をとることで、テーマとなっている問題をより具体的にイメージしていただくことができると考えています。実際、社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」が運営している子どもシェルターの設立は、子どもたちが駆け込める施設があったらいいなという希望を託した過去の公演がきっかけでした。 今回は、親の離婚と再婚に翻弄される2人姉妹の物語です。親の離婚に巻き込まれる子どもの気持ちや、子どもが直面する問題を描き、「子どもの手続代理人」制度についても広く知っていただきたいと「親の離婚と子どもたち」をテーマに選びました。実際に多くの弁護士は、離婚にまつわる案件を常に数件担当しています。そのなかで、両親の離婚に巻き込まれて、悩み葛藤する子どもたち子どもを目の当たりにしているんですね。 離婚で家庭での居場所を見失いシェルターに逃げる子も――子どもの葛藤とはどのようなものでしょうか? 福尾:たとえば、転校がいやなら言えばいいと大人は思いがちですが、子どもは「離婚は自分が原因なんじゃないか」「親を困らせたくない」という思いがあり、そう簡単には口に出せない子どもが多いんです。様々な背景があるにせよ、親の離婚、再婚が受け入れられず、家庭での居場所を見失ってシェルターに来る子どもたちもいます。 今回のお芝居のなかでは、「子どもの手続代理人」がそうした子どもにどのように寄り添えるのか、サポートできるのかという点も描きます。多くの皆さんに今回の公演をご覧いただき、親の離婚に巻き込まれる子どもたちのために、私たち大人に何ができるのか、一緒に考えていきたいと思っています。
|