東京北の端っこ北区赤羽が、今アツイ! 昔から、朝からお酒が飲めることで有名なこの町は、近年、千円でべろべろに酔える“センベロ”が楽しめる聖地として、注目が集まっている。さらに、2015年1月から、俳優の山田孝之が赤羽で過ごした日々を追ったドキュメンタリーのようなドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』が、テレビ放送されていることが大きく影響し、最近では女性客もぞくぞくとやっているらしい。という訳で、その実態を知るべく、という名目の元、アラサー女子がひとりで赤羽に乗り込み、“センベロ”居酒屋へ行ってみました。 赤羽1番街商店街 たまには仕事を早く切り上げて、パーッと飲みに行っちゃえ!3月某日、木曜の夕方17時過ぎ。 週の半ば、次の日も仕事という中途半端なこの曜日に、いつもよりかなり早く仕事を切り上げ、赤羽駅へ到着。東口を出て向かうは、赤羽随一の飲み屋街「1番街」。タクシーの運転手に場所を聞いてみると、「バスロータリーの奥だよ」とのことで、指を差された方向に数分歩くと、デカデカとした「1番街」という看板が掲げられていた。 横断歩道を渡り、よーし飲むぞと、飲む気満々で看板をくぐり、広がっていたのは、予想をはるかに超える大飲み屋街。チェーン店も、個人店も含め、どこもかしこも「飲んでってよ」と呼びかけているような魅力的な佇まいで、店内にはすでにかなりお客さんが入っている。 まるます家 1軒目で隣の席の女性ひとり客に声を掛けてみるが……中でも、この界隈で有名な老舗店が「まるます家」。巨大看板がものすごい貫禄を醸し出している。圧巻の外観を見てたじろいでいると、30代ぐらいの女性客がひとりで中へ入って行ったので、勢いにのって続いて入ってみることに。すると、店内はすでにほぼ満席状態で、コの字型のカウンター席には、サラリーマンらしきスーツ姿の男性を中心に、人、人、人で大繁盛している。 牛筋の煮込みとレモンサワー。うまし。 カウンターの中には、60代、あるいは70代とおぼしき元気なおばちゃんがテキパキと無駄なく動きまわり、席につくと、「何にする?」と聞かれたので、とりあえずレモンサワー(400円)と牛すじの煮込み(450円)を注文。あれっ思ったより安くないなと思ったものの、運ばれてきたサワーは大ジョッキ、牛すじの煮込みは、牛筋、豆腐、ごぼう、にんじん、こんにゃくなど具がたっぷりで、ボリューム満点。と、ここで、先ほどのひとりで訪れていた女性客と隣同士の席に通されていたので、「よく来られるんですか?」とさりげなさを装い、質問してみると、「いや、そんなことないです」とそっけない、お答え。ガガーン、拒絶された。気安く話しかけて、すみませんでした……。 丸健水産 2軒目はメニューがなく、注文の仕方がわからない……同世代女性に拒否され、涙ながらに向かった先は、「まるます家」から徒歩すぐ、ディープな匂いがぷんぷんする「シルクロード」通りにある、おでん屋「丸健水産」。“センベロ”目的でやってくる人は、かなりの確率でやってくるお店のようで、18時頃で20名以上が並ぶ長蛇の列ができていた。 ほぼ100%が黒や紺のスーツ姿の男性ばかりで、全然女性がいない。おかしいな、こんなはずでは……と思いながら、ともかくひたすら並び、順番が近づいてくると、カウンターの上にはおいしそうなおでんが見えてきた。しかし、メニューが一切なく、値段も不明でどう注文したら良いのかわからない。一体いくらなのか、飲み物は何があるのか。そんなことを聞く勇気もなく、前の人に便乗して、カップ酒と、おいしそうに見えた大根、ゲソ、がんも、さつま揚げを頼んで、850円。一体、それぞれいくらなのかはナゾのままだが、ともかく安い。 楽しいカウンター席 これぞ赤羽、といった雰囲気の大衆的な立ち飲み席に通されると、サラリーマンのおじさま2人組が楽しげに飲んでいて、「1人で来たの?」「1軒目?」とあれこれ話しかけられ、「女性がいると、場が華やかになるねえ」と、アラサー独身女子には、ありがたきお言葉。喜んでいただけて、感無量でございます。 おふたりとも16時頃に飲み始め、「センベロでは全然物足りなくて、すでに3000ベロぐらいです(笑)」とのこと。確かにこの町、“センベロ”体験ができるお店は山ほどあるが、あちこち回りたくなってしまうので、千円でベロベロになったとしても、終わらない。会話の合間に、味がきっちりと染み込んだおでんを食べて感動し、カップの日本酒を飲んでいるうちに結構、酔いがまわってきた。ここで終了すれば、ちょっとオーバー気味のセンベロ体験となるのだが、不思議なことに一切終わりにする気が起こらず、素敵なおじさま方と別れ、次のお店へ。 勘九郎 赤羽店 女性のひとり飲みは、少ない印象ですね丸健水産を出て、そのまま「シルクロード」をふらふらと歩いていると、赤提灯がぶらさがった「勘九郎」呼び込みのお兄ちゃんに「カウンター席あるよ!」と声をかけられ、誘われるがまま中へ。1階席と2階席があるようで、1階は全席カウンター席だったので、ひとりでも居心地が良い。 席に座ると、ずいぶん酔っ払ってぽーっとしながらも、ジャスミンハイ、焼き鳥のももと豚とろを頼み、運ばれてくるやいなや、ぐいぐいとジャスミンハイを飲み、焼き鳥にかぶりつく。うまい。カウンターのお姉さんもかわいい。だが、なんだか、あちこちのお店をめぐりたい衝動に駆られ、さっと飲んで、食べて出て行くと、お会計は、なんと590円! 赤羽はお通しがないのか、安い。 そして、帰り際に、まだ呼び込みのお兄ちゃんがいたので、うすうす気がついていた、意外と女性客がいないんじゃないか問題について質問してみると、「人気が出てきていると言っても、やっぱりまだまだイベント的な感じで、土日に女性連れの方が何人かで女子会開いていることが多い気がします。女性のひとり飲みは、少ない印象ですね」とのこと。 ふむふむ、なるほど、やっぱり、そうですよね。いやーひとりで来て失敗した、誰か誘えば良かった、なんて頭の中でぼやきながらも、自分でも訳がわからず楽しくなってきて、あと1軒、あと1軒、と思いながら歩いていると、赤羽らしからぬ、超絶おしゃれな奇跡のお店を発見。外からじーっと不審者のように見ていると、店の人と目が合い……イケメンキター!!! ほかのお店とは違い、静かに、そっと入っていきませんかと誘われ、吸い込まれるように入ると、パリッとしたスーツに先の尖った靴を履いた若いサラリーマンが、中東などでよく吸われている水タバコ“シーシャ”を吸っていた。ほかのお店とはまったく客層が違う。 イケメン店長 酔っ払って路上に寝ても財布がなくならないこちらは、昨年の12月に誕生したばかりの「SHISA de TREE」という名前のシーシャとサイフォン式コーヒーのお店で、ものすごく落ち着く。カフェのようなまったりとできる空間で、ガチャガチャとした赤羽の空気とは真逆ながら、焼き鳥やおやつなどをフリーで持ち込んでもいいという太っ腹な面も見せる。 ブレンドコーヒー350円。上質で安い 2階には、なぜだかブランコが用意されていて、常連客いわく、自分がどれだけ酔っ払った状態なのかをはかることができ、さらに、楽しくなっちゃったお客さんたちが童心に帰り、ゆらゆらとゆらして遊ぶこともあるという。さすがは赤羽にお店を構えるだけあり、ただ、おしゃれなだけでは終わらない。 イケメン店長とその場にいた常連客に、この日、訪れた居酒屋について伝えると、これはあくまでも赤羽の超王道コースであり、まだまだ赤羽という町の入口に過ぎないという。この近隣の奥地には、さらにディープな世界が広がっているというのだ……。最近では、こんな怪しげな魅力に惹きつけられて、お店のオープンを計画する若者が増えているようなので、これから、さらに赤羽の町に大きな変化がありそうだ。 「この町のいいところは、意外と治安がいいところです。変な人はいっぱいいますよ。でも、酔っ払って路上に寝転んで、財布を枕元(?)に置いて、完全に寝ちゃう人がいても、財布がなくなってないので、きっと安全なんじゃないですか(笑)」 そんな話を聞きながら、ふと気がつけば、23時過ぎ。17時に乗り込んで、一体全体どこでそんな時間を過ごしたのかわからない。もっともっと、まだ行ける、とナゾの欲求に突き動かされ、居酒屋をハシゴした夜。たまには、こんな夜もあってもいい。たくさんあってもいい。今度は、もっと早い時間に、誰かを誘って訪れたくなる、飲みのテーマパークのような町であった。 |