左:心理学者・澤田匡人さん、右:脳科学者・中野信子さん 「リーダーになって初のプロジェクト、大成功!」 「うちの子の寝顔、天使みたい!」 「旦那さんが育児休暇取ってくれて、ハワイで子育て中! 帰国は3ヶ月後かな〜」 「ただいま、パリ!」 FacebookやTwitterに溢れる友人の“日常”をなにげなく眺めているだけで、ふつふつ沸き上がってくる気持ちがあります。 妬み、嫉妬――。 SNSを常用している私たちにとって、このいやーな感情はどうしても切っても切り離せないもの。でも、このもやもや、どうにかできるならどうにかしたい! そう思ったことはありませんか? そこで今回は『正しい恨みの晴らし方』(ポプラ新書)を上梓した、テレビでもお馴染みの脳科学者・中野信子先生と、宇都宮大学教育学部准教授の心理学者・澤田匡人先生に、妬みや嫉妬の構造と、その晴らし方について教えていただきました。 他人のものが欲しい「妬み」、とられたくない「嫉妬」――そもそも「妬み」と「嫉妬」、その意味に違いがあるのでしょうか。 澤田匡人さん(以下、澤田):妬みは、「人が持っていて自分が持っていないのものを、奪いたい!」という感情です。一方の嫉妬は、「自分が持っているものを人に取られてしまうかもしれない」という不安の感情を指します。言い換えると、妬みは「より高みを目指す」ことで、嫉妬は「現状維持」ですね。 ――なるほど、「上昇志向」と「現状維持」。そう言い換えると、人間にとって両方とも大事な機能ですね。 澤田:妬むことにより、自分が欲しいものが何かということに気付けるし、それを手に入れるモチベーションになります。そして嫉妬することで、自分が保持している大事な人やものを失わないようにと気を引き締めることができますよね。 中野信子さん(以下、中野):妬みと嫉妬があると、個体が生き延びやすくなったり、子孫を残しやすくなるのです。つまり生物にとって、とても原始的な感情で、このふたつの感情がないと生き残りにくい、か弱い存在になってしまうんです。 澤田:ただ、普段から生存本能を意識している人はいないと思いますので、妬みや嫉妬の感情はないほうがいい、と思うのは自然なことです。 生存本能と社会的モラルのはざまで葛藤――妬んだり嫉妬すると、そんな感情を持つ自分に対して、罪悪感でいやーな気分にもなりますし……。これもまた、人間特有の葛藤なのでしょうか。 中野:それは、人間の中で「個体レベル」と「社会レベル」が乖離しているからなんです。個体レベルでは、ないと困る感情。ですが社会レベルでは、嫌なものとされている。たとえば、浮気と同じです。個体レベルでは「子孫をたくさん残したいから、たくさんのパートナーと交尾したい」と思うのは当然だけど、社会レベルだとそれは許されませんよね。 「社会的存在の自分」と「個体の自分」を制御する場所が、脳の別の部分にあるから葛藤が生じるんですよね。「個体」として生を保とうとする能力は、脳の奥にある「辺縁系」にあります。そこを、生物が人間になって急激に増大した「前頭前皮質」がコントロールして抑えているのですが、ここにある「前頭前野」が社会性を司っているんです。 ――妬みと嫉妬の感情はどこから湧くのでしょうか。 中野:「嫉妬」は、脳のとても奥の方、原始的な場所で生じます。一方の妬みは、「前頭前野皮質」の中の「帯状回」にあります。「集団において、自分の順位を気にしている状態」のもとで生じるものなので、嫉妬よりも妬みのほうが、社会的な苦しみと言えますね。 ――心理学の観点からはいかがでしょうか。 澤田:赤ちゃんを対象にした実験があるんですが、お母さんが赤ちゃん以外のものに視線を向けたとします。それが本なら、赤ちゃんは何も思いません。ですが自分と似た形の人形だと、赤ちゃんは嫉妬するんですね。赤ちゃんレベルでも起こることなんです。「嫉妬は不安の発展形」で、「妬みは苦痛と同ジャンル」だと思っていただければ。 社会的報酬「いいね!」を求めて自分を見失う――現代のSNSは、苦痛を受けやすいツールの代表格のようですが。 澤田:SNSは、「人と関わりたい」という欲求を満たしてくれる便利なツールであると同時に、見たくないものまで見させられてしまう。その中で、妬みがどんどん出てくるのは避けられません。もう無視したいなら、山奥で暮らすしかないんじゃないかと。でもそうはいかない。要は、SNSが悪いのではなく、ものは使いようということです。 中野:SNSの一番の苦痛ポイントは、「社会的報酬」が可視化されることにあるのではないでしょうか。つまり、「いいね!」やシェアの数がすぐに分かること。もしどちらもゼロだったら、いわば「みんなから無視されている」という状態が露わになるということなんですよ。これは苦痛です。それで、ネタ消費に走ったり、別に食べたくもないのを写真に撮って投稿するためだけに高級レストランに行ったり、同様に旅行に行ったり。あげく、リア充アピールのために彼氏を作ったり(笑)。 澤田:人から褒められることが、私たちにとってどれだけ魅力的か、ということですね。一方で、やりすぎると疲弊もする。 中野:そういうことを、SNSは教えてくれますよね。 では、どうすれば苦痛を受けず、疲弊もせず、「妬み」や「嫉妬」を軽減してSNSを使うことができるのでしょうか。気になるその対処法は、後編にて |