家族の死は誰でも悲しく身が引き裂かれる思いです。突然逝ってしまったら「心の準備もできてないのに」とショックで涙も出ないかも。だからといって、ずっと入院していたり、手術したりする姿を見続けるのも辛いものです(一番辛いのは病と闘う本人ですが)。 映画『マルタのことづけ』は、シングルマザーのマルタ(リサ・オーウェン)と孤独な女性クラウディア(ヒメナ・アヤラ)の交流を描いた物語です。マルタには5人の子供たちがいますが、彼女は不治の病で余命いくばくもありません。残された人生の中で、マルタが子供たちに伝えたこととは? また子供たちは母の死をどう受け止めたか……。映画『マルタのことづけ』が描く終活のカタチを見ていきましょう。 ありのままの自分を見せて生きる!マルタは実に親しみやすく、他人とのコミュニケーションに臆するところがありません。入院中もずっと初対面のクラウディアに話しかけていましたからね。また人の気持ちにも敏感で、マルタはクラウディアの孤独を察すると家に招待し、子供の世話も頼み、なんと独り身のクラウディアを同居させるのです。そしてクラウディアはマルタや子供たちと生活を共にするうちに、家族の間には隠し事がないことを知ります。 「子供に心配をかけたくない」と親はつい強がってしまいますが、マルタは食事の途中でも席を立ってトイレで吐くなど、病んで弱っていく姿を隠しません。あけっぴろげでビックリするほどですが、マルタは入退院を繰り返しながらも自分を甘やすこともしません。退院していきなり料理したり、学校の送り迎えをしたり、海へ行ったり、病院のベッドではできない生活をして、最後まで普通に生きることを子供たちに見せるのです。余命いくばくもないのにマルタの人生はフルスロットルという感じです。 死にゆく母を受け入れること子供たちは母から生きること、生活していくことを学びながらも、母の死が恐怖です。まだ十代の三女が「ママが死ぬのを見たくない」と言いますが、その気持ちわかりますよね。それはアラサーだって、アラフォーだって、親の死と向き合うのは辛いです。でもマルタの子供たちは母が最期まで生を全うしたことをしっかり見届けます。その姿は母の人生を受け継いでいるようです。 父や母の死はお別れじゃなく、親の生を受け継ぐことなのかもしれません。マルタも最後まで精一杯生きて「後は任せたわよ」と人生のバトンを子供たちひとりひとりに渡したのです。よく、亡くなった人について「心の中で生きている」と言いますが、マルタと子供たちの姿を見ると、それはこういうことなのかなと思わされます。 マルタの終活は実話ベースです!ちなみにマルタの物語は実話です。『マルタのことづけ』の監督であるクラウディア・サント=リュスの経験を基にしているのです。監督が孤独に押しつぶされそうになったときに救ってくれたのがマルタ。元気のないときはマルタを思い出してエネルギーをもらっているというリュス監督はマルタの娘のような存在なのでしょう。そして監督は「マルタのことをみんなに伝えなくては」と映画化に踏み切ったのです。 『マルタのことづけ』で、二女を演じたウェンディ・ギレンは亡くなったマルタの実の子です。ウェンディは「映画でまた母と逢える」と喜んでいたそうです。母の人生を映画へと繋いだ娘ウェンディとリュス監督。やっぱり親は子供に人生をたくしているんですよ。そう考えたら親を亡くしてもメソメソしていられません。しっかり生きなくちゃと思えるのではないでしょうか。
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