近年、日本でもよく見かけるようになった頭にスカーフを着用したイスラム教徒の女性たち。彼女たちは男性がいるヘアサロンではスカーフを外すことができず、なかなか髪の毛を切ることができません。そこで、日本でも髪を切っておしゃれを楽しんでほしい! と東京・恵比寿のウエディング中心のビューティサロン「ソルピスカ(SOLPISCA)」が立ち上がり、事業の一環として、日本初で唯一のイスラム教徒の女性のためのヘアサロン「ムスリマ・フレンドリー・ビューティーサロン(Muslimah Friendly Beauty Salon)」をオープン。代表の木村ま美さんとヘアスタイリストの大屋直美さんにオープンに至った経緯などをお聞きしました。 ドアを覆うロールカーテンを下げ、外から見えない個室サロンに――いつ頃、「ムスリマ・フレンドリー・ビューティーサロン」を開いたのでしょうか? 木村ま美さん(以下、木村):正式にオープンしましょう、と立ち上げたのは、昨年の12月からです。通常はウエディングのお客様が中心のヘアサロン「ソルピスカ」ですが、同じ店内でイスラム教徒の女性“ムスリマ”(ムスリムは男性)の方を受け入れる「ムスリマ・フレンドリー・ビューティーサロン」をオープンしました。 ――なぜ、イスラム教徒女性向けのヘアサロンを作ろうと思ったのですか? 木村:きっかけは、コンサルタント関係のお仕事をされている「タニティバブルス」の山岡さんとわたしの友人で、「コプラス」の鷲見さんから、ムスリマ向けの事業をやってみないか、とお話をいただいたことです。 わたし自身もドバイをはじめ、様々な国に行く機会があり、そこで出会った方々とお友達になり、3、4年ほど前からムスリマの方の助けにならないか、一緒にお仕事できないかなと思っておりました。国によって服装は違うと思いますが、例えば、ドバイの方はヒジャブ(スカーフ)や上着を脱ぐと、きらびやかな装いをされており、本当に綺麗なんです。 また、インドネシア人のムスリマの方から、「日本の美容室の場合、男性スタッフが出入りするので落ち着かない」という話を聞いたこともひとつの理由です。当サロンは3席しかなく、個室にすることも可能ですので、ご予約が入った時に、入口のドアの鍵を閉めて、ドアを覆うロールカーテンを下げ、パーテーションを置き、外からはまったく見えないようにし、完全な個室サロンにしております ――通常の日本のヘアサロンとは、何が違いますか? 木村:男性が入らない、外から見えないようにすることはもちろんですが、使用するシャンプーやパーマ液、カラー剤などに、豚を始め、四足の動物由来の原料のものを一切使えないことです。 大屋直美さん(以下、大屋):ムスリマの方に「豚由来のものは入っていないですか?」と聞かれ、調べたところ、ケラチンはヤギ由来、コラーゲンは豚由来ということがわかり、知った時は非常に驚きました。使えるアイテムを探そうと、大手メーカーに問い合わせ、事情を話したところ、「そんなことをして利益になるんですか? そこまでする必要があるんですか?」と言われ、見つかるまでは大変でした。 木村:「動物由来のものが入っていると問題になることから様々な会社から成分表を取り寄せましたが、本当のところ、何が入っているか知らないメーカーの方もいらっしゃいました。原料があり、それが粉末になって、それが科学的に変化して……と順を追っていくと何が入っているのかがわからなくなってしまうようです。そのことがあり、自分たちで調べてみると、使用されている成分が髪にどう影響するのかを知ることができ、とても勉強になりました。 大屋とずいぶん悩んでいたのですが、あるムスリマの方から日本でもよく見かける市販のカラー剤を使っている、という話を聞き、せっかくの苦労も振り出しに戻ったことも思い出です(笑)。 ――イスラム教についての勉強はどうされていらっしゃるんですか? 木村:イスラム教に関する研修にたくさん参加しました。イスラム教徒が日本で生活しやすくなるよう、食を中心とした環境を改善することを目的にした「日本ハラール協会」という協会があります。海外に進出したい時にイスラム法に乗っ取った基準をクリアした“ハラール”の認証を取りたい企業や飲食関係者の方向けや、日本にお客様がいらっしゃった場合、ホテル側でどう対応したら良いか、お料理はどんなものを出したら良いか、さらには、その人たちの生活すべてについて、勉強をする研修があり、様々な企業が参加されており、勉強になります。 ――イスラム教を勉強していて、美容事情で驚いたことはありますか? 木村:眉を含めて、目の周りの毛をカットしてはいけない、ということでしょうか。中には綺麗に整えている方もいらっしゃるので、カットはいけないけれど、抜いてもいいのかな?(笑) お客様によっては「アイブローをしてもらえるのか」と聞かれることもあるので、正直、よくわからないところです。 以前、ドバイに行った際にテレビで、ドバイの「ダイソー」で一番売れているアイテムは、つけまつ毛でした。目力をアップするために、2枚重ねてつけると紹介していて、不思議に思いました。 大屋:それから、生理中はネイルをしていいけれども、普段はしちゃいけないんでしたっけ? 木村:そうですね。確か、生理中は神様がいるモスクに行くことができないので、その間だったらおしゃれができるけれど、それ以外の期間はモスクに行かないといけないから、という理由をムスリマの方から聞きました。女性の生活や美容に関し、もっと勉強しなければいけないですね。 ――ところで、これまでムスリマのみなさんは、一体どこで髪を切っていたのでしょうか? 木村:美容師さんを自宅に呼んで、カットして頂いている、というお話は聞いたことがあります。お客様としていらっしゃる方は、日本に長く滞在されており、ある程度、旦那さまの経済力がしっかりされていらっしゃる方という印象ですが、自国に帰って、切る方が多いんじゃないでしょうか。 ――お話をお伺いしていると、時間も、お金も、ものすごく使っていらっしゃいますね。残念ながら、日本ではよく知られていないイスラム教徒の方々のために、ここまで頑張ることができる、その原動力を教えてください。 木村:やっぱり人が好きなんじゃないかな。国籍問わず、同じ人ですからね。「半年間、髪をカットしていない」という話を聞くと、日本の技術で「もっと綺麗にしてあげたい!」と思います。 実際に来て頂いて、たとえ綺麗にブローしても、結局は、髪をまとめてしまう方が大半ですが、綺麗にしてもらうと気持ちが違いますよね。ほとんど家族にしか見てもらえないけれど、それでも綺麗にしていたい。その気持ちは、どの国の女性も同じだと思うんです。目標としては、オリンピック開催時期を目指して、日本のムスリマの方々が気軽に立ち寄ることができるヘアサロンとして、少しずつ定着させていけたらいいですね。 |