晩婚化や平均初産年齢の高齢化から「妊活」という言葉が一般的になり、「不妊症」への理解も高まりつつあるように感じられます。しかし、女性の「不妊症」に関する関心が高まる一方で、未だに広く認識されているとは言えないのが男性の不妊症。この問題について、『男性不妊症』(幻冬舎)の著者で医療法人仁寿会リプロダクションクリニック大阪の医師、石川智基先生に話を聞きました。 12人〜15人にひとりは男性不妊症の可能性あり!不妊症は女性に多い、という先入観から、男性不妊症を疑わない結果として肩身の狭い思いをする女性は多いでしょう。しかし、石川先生はこう言います。 「男性不妊症と診断される男性は、約12〜15人にひとり。射出精液中に精子が1匹も見当たらない無精子症の男性は100人にひとりという割合で存在します」 石川先生いわく、2012年にNHKが番組で取り上げてからというもの、男性不妊症に対する認知度はこれまでより高まってきているとのこと。以前は妻が夫の不妊症を疑い、半信半疑の夫を引っ張って受診に訪れるケースが多かったそうですが、放映後はきちんとふたりで話し合い、夫も納得の末にクリニックを訪れる夫婦が増えたのだとか。 では、いざ夫が男性不妊症と診断された場合、夫側は果たして治療に意欲的になってくれるのでしょうか。 「ほとんどの方は意欲的になってくださいます。(子どもがほしいというのはもちろん)妻に悪い、申し訳ないという思いも手伝って、あきらめず何とかしようという方が多いように思います」 「まさか自分に限って」という夫にどうやって受診を勧めるべき?受診や治療に積極的になってくれる夫ならば、一歩前進できたといえるかもしれません。でも、「まさか自分に限って」と一笑に付されてしまった場合、妻はどのように受診に導いたらいいのでしょうか。デリケートな問題なだけに、下手をすると角が立ってしまいそうですが……。 「とにかく奥様のほうから『一緒に検査に行こう』と寄り添ってあげることです。今は土日に男性不妊外来を設けているクリニックも増えてきています。敷居も昔ほどは高くありません。婦人科とうたっているクリニックを受診するのは男性としては相当しんどいけれど、男性、女性、両方診てくれるクリニックならば、男性も気楽な気持ちで行けるでしょう」 男性不妊症の夫に対して妻がサポートできること男性不妊症には、先天性と後天性による原因があります。石川先生によると「先天的なものは、ほとんどが遺伝子の異常、もしくは染色体の異常が原因と考えられます。後天的な場合で一番多いのは精索静脈瘤、小児期の停留精巣、思春期になってからのおたふくかぜなどですね」とのこと。 原因が何であるかは医師の診断に任せるとして、普段の生活において夫が心がけること、そしてパートナーである妻が心身ともにサポートできることはあるのでしょうか。 「まず、射精の頻度を上げることですね。私のクリニックにいらした患者さんには、1週間に3〜4回は射精するよう指導しています。それに加えて性交渉の回数を増やすことも大事です。というのも、精子の生存期間は短く、3日以上禁欲すると死滅精子が増えて、良質な精子に対してあまりよい影響を与えないのです。ただ、パートナーである奥様が『妊娠できるタイミングだからセックスしよう』『妊娠するために今日射精をして』など、露骨にそれを出すと旦那様は気持ち的に引いてしまい、悪影響を及ぼすことも……。そうならないように、“その時”に限って性交渉をするのではなく普段からスキンシップのひとつとしての性交渉を心がけてください。日常的に性交渉をもつことで、男性もプレッシャーを感じにくくなるでしょう」 不妊症というのは、決してどちらか一方の問題ではありません。相手がそう診断されたからといって、責める気持ちを持つのはもってのほか。男性側にとっても敷居が低くなった専門機関での治療はもちろん、いかに女性が精神的にサポートできるかが重要なポイントのようです。
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