開始2ヶ月でiTunesランキング1位になったPodcast「バイリンガルニュース」。無名の男女2名が最先端ニュースについて意見を交わす番組で、爆笑問題の太田光氏も絶賛。科学・医療からセックスまで幅広い話題を扱い、スタートから2年半以上経過した今も好評を博している。 パーソナリティの1人であるMamiさんは、帰国子女でも留学経験者でもない、東京育ちのバイリンガルだ。Podcastのほか、メディアのコンサルティングやコラム執筆など幅広く活動し、2015年には初の書籍『MY JOURNAL 英語で日記を書こう』(ポプラ社)も上梓した。 今回はMamiさんに、英会話教室に通わずに英語力を向上させる方法や、英語を通して得られる知見、日本人が英語を学ぶべき理由などを伺った。 英語は楽観的に触れていくのが一番いい――Mamiさんが英語を習得するまで、挫折や苦労などはあったのでしょうか。 Mamiさん(以下、Mami):母親が英語を話せたり、中学生の頃からアメリカの映画・ドラマに触れたりしていたので、もともとそれほど英語にハードルは感じていませんでした。でも、私が進学した大学の学部は全ての授業が英語で行われていて、学生も外国人やハーフ、帰国子女ばかり。さすがに不安を覚えたのですが、周りの子たちも「授業の内容が高度でわからない」と言っていたので、「意外と大丈夫かも」と急に自信がついたんです。「そもそも母国語じゃないんだし、文法を間違えても知らない単語があってもしかたがない」と。その後、大学生活で毎日英語に触れ、一気に英語力が飛躍的に向上しました。 ――英語がわかることで自信がついたのではなく、英語がわからないことで自信がついたと。 Mami:日本人は「恥ずかしい」と思ってしまいがちですよね。学生の頃、マンツーマンの英会話学校でアルバイトしていたんですが、多くの生徒さんが「複数の生徒がいる教室だと、間違えたときに恥ずかしい。完璧に話せるようになってから英語を使いたい」と言っていました。でもその感覚だと、英語を使う機会はずっとやってこないと思います。そもそも完璧な日本語を話す日本人がほとんどいないように、完璧な英語を話す人もいません。タイやベトナムに行くと、間違えていても堂々と英語を話す人ばかりです。英語がわからない、間違えるのは当たり前なんだという認識を持つと、上達が早くなると思います。 また、よく「週に1回、1時間の英会話の教室に通っているのに、ぜんぜん上達しないんです」と言う人がいます。週に1回1 時間と言うと多く感じるかもしれませんが、月にすれば4時間、1年間にするとたった48時間です。これでは、あまりにも少ない。ネットなり映画なり気軽に英語に触れられるメディアを日常に組み込まないと上達は望めません。 『MY JOURNAL 英語で日記を書こう』 英語を学ぶことで、思いつかなかった考え方が生まれる――なるほど。日本人が英語に苦手意識をもってしまう他の要因と、それを克服する秘訣は何だと思いますか。 Mami:学校では受験のための英語学習ばかりで、「しんどい」という印象を持っている人が多いと思うのですが、私は「楽しく実践」をおすすめしたいんです。バイリンガルニュースに対して、「このPodcastは楽しいけど勉強にはならない」という意見をもらうことがあるのですが、私は自分自身の経験から、楽しくないと継続するのは難しいと考えています。「英語は苦しみながら勉強しなくても話せるようになる」ということは、番組を通して伝えたいことの一つです。受験英語の記憶が残っていると、それに引きずられて「単語を毎日100個丸暗記しなきゃ!」という先入観を持ってしまうかもしれませんが、もっと楽観的に取り組むことで挫折せず長続きし、結果的に上達しやすくなると思います。 ――日本語と英語どちらも話せることで、思考回路や考え方が変化したということはありましたか。 Mami:何かを話すときって、思考を言語に落とし込んで発しますよね。知っている言葉には限りがあるから、表現にも限界がある。英語を学んで新しい言葉を覚えると、今まで思いつきもしなかった考え方やフレーズが浮かぶことがあります。 例えば、「You don’t deserve this」。直訳すると「あなたはこんな扱いされるべきじゃない」「こんな扱いに値しない」という意味です。彼氏からひどい扱いを受けている友人に対して使うと、「あなたはもっと価値がある人間だよ」ということを伝えられます。日本語だと「ひどい彼氏だね」「かわいそうだ」とは言っても、「あなたは価値がある」という発想・言い回しって、あまりしないですよね。このように、新しい発想や視点を得られるんです。 また、友人同士などカジュアルな場での英語にはわかりやすい敬語表現がないので、話し相手の年齢もあまり気にしません。年齢という記号で人間を見ないということなので、交友の幅が広がります。 英語を覚えたい人は、刑事や法律ものの映画・ドラマを――洋画を字幕無しで観続けると、英語がわかるようになると聞いたことがあるのですが、いかがでしょう? Mami:リスニング力の向上には役立ちますが、慣れないうちは大変ですよね。初心者のときは英語の字幕をつけながら見ると、音声と言葉が同時に入ってくるのでいいと思います。コツは、もしセリフが1つくらいわからなくても、「わかるはず!」とポジティブに構えて観続けること。完璧に聞き取れなくても、「おそらくこういうことを言ったんだろう」とストーリーを追っていけば、だんだん聞こえるようになってきます。わからない単語を片っ端から全て辞書で調べるなど、あまり頑張りすぎると途中で嫌になってしまうので、あまり気負わずに楽しみましょう。 ――作品のジャンルとしては、日常や恋愛を描いたような、ストーリーが難解ではないものがいいのでしょうか。 Mami:若い男女が出てくる作品って、みんな早口だったり、流行り言葉やスラングがたくさん出てくるから、逆に聞き取りが難しいんですよ。 ――なるほど。 Mami:私のおすすめは法廷モノです。弁護士が陪審員に話す英語なので、はっきりした発音でわかりやすいんです。専門用語は出てきますが、ずっと観続けていると同じ単語が何度も出てくるので、想像より難しくないんですよ。もちろん、日常や恋愛を描く作品がダメということではありません。自分の好きな作品が、いちばん楽しく観続けられますから。Youtubeで好きなセレブや俳優のインタビューを見るのもオススメです。好きな人が喋っていると、内容が気になりますよね。「気になる」というのは、英語学習の一番のモチベーションです。 英語習得によって得られる“話せる”以外のメリットMamiさん ――今では教材にお金をかけなくても、ネットでたくさん英語を得られるから利用した方が得ですね。 Mami:英語がわかるようになると、インターネットでの情報収集の質も変わってきます。英語のページは様々な国の人が編集しているのに対し、日本語のページはほとんど日本人だけが編集してるから、情報が偏っているんです。例えば、Wikipediaで「ローヤルゼリー」を調べてみてください。日本版では、ずらりと効能が並んでいます。しかし英語版だと、「こうした効能が謳われているが、アメリカ政府とEUはこれを認めていない」などの記述があるんです。 日本の当たり前は世界の当たり前ではないし、逆もしかりです。せっかく世界の情報を取り入れられる時代に生まれたのに日本語で書かれた情報しか読めないというのは、すごくもったいない。 ――たしかに「多様性」が世界のトレンドになっている今、日本が取り残されている感じがするのは、そうした情報収集の乏しさからくる視野の狭さが原因かもしれません。 Mami:日本には「空気を読む」「同調圧力」という言葉がありますね。人と違う意見、場を乱す発言は「悪」とされる。でも、政治や宗教はもちろん、カップル間においても、意見が全部ぴったり合うなんてことはない。日本では反論すると「個人攻撃」と受け取られがちですが、英語では意見が食い違ったときに、よく「I respect your opinion.」など、「respect」という言葉を使います。これは「(同意はできないけど)あなたの意見は尊重します」という意味です。意見自体に対して反論はあるけれど、意見を発した個人に対しての攻撃では決してないからです。 また、「Let’s agree to disagree(賛同しないことで賛同しましょう)」という言葉もあります。「私とあなたの意見は違う。違うということでいいよね」という意味。相手の意見を捻じ曲げようとする必要はないということです。そうした新しい視点を持てるという意味でも、英語を学ぶメリットはとても大きいと思います。
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