10月発売の女性向けファッション誌の表紙に「ベーシック」という言葉が踊り、2015年春夏パリコレクションでの会場スナップでも「ノームコア」というワードが頻発しています。 「ノーマル」と「ハードコア」が融合したトレンドワード“ノームコア”。それは普通にしていればカッコいいということ? この不思議な流行について、ファッションのプロに聞いてみました。 ノームコアの流れはどこから来たのか2014年前半、NYから突然現れた“ノームコア”。 菅付雅信著『中身化する社会』(星海社新書)ではNYの街では「とにかく人々の装いがカジュアルになっている」といい、その理由の一つとして、FacebookなどSNSの出現を挙げています。実際に会う前にその人の情報が入手できるようになり、第一印象で個性をプレゼンするファッションの役割がなくなったことが関係しているのではと推測しています。 一方、ファッション週刊紙WWDジャパンの編集委員・三浦彰氏は、次のように述べています。 「ノームコアの源流を探ると70年代のヒッピー文化に辿り着きます。上流社会へのカウンターカルチャーとして、ジーンズが流行しましたが、ハイソサエティーの世界でも、セレブパーティーにあえてTシャツ、ジーンズにルイ ヴィトンのバッグを合わせることがチープシックと呼ばれました。 その後、ハイファッションの世界でチープシックやシャビーシック、ベーシックは一定の流れとして続いてきましたが、特に2000年以降、エコロジー、ロハスなどライフスタイルの概念と結びつき、さらに大きな潮流に。そこに“ノームコア”という名前がついたのでは」
しかし、ファッションに関心がなく“服にお金をかけたくないからとりあえず全身ユニクロ”は「ノームコアではない」と続けます。 「ノームコアはハイブランドの中で、あえてシンプルなデザインを選ぶファッションの一つのトレンドであり、ブランドに関心のない世代のシンプルライフとはまた別のものです」(三浦氏)
また、ファッション誌で活躍するファッションディレクターの菅野麻子さんは、こう話しています。 「“ノームコア”という言葉が今注目を浴びているだけで、スタイル自体はずーっと昔からファッション界やクリエーター界にはあったと思います。今、“ノームコア”という言葉が取り沙汰されているのは、フィービー・ファイロのセリーヌが火をつけた『ミニマリズム』がトレンドの主流となったり、ハイブランドもこぞって『スポーツテイスト』をスタイルに取り入れ始めたから。2014年秋冬シーズンは特に、ハイブランドが軒並みスニーカーをスタイルの足元の定番としたことで、リラックス気分のないファッションが考えられなくなってしまったという時代性なのだと思います」
ファッションのプロでも、微妙に見解の異なるノームコア。 どうやら「普通がオシャレ」「ぼーっとしてたら、今年に入ってオシャレと呼ばれた」という単純な現象ではなさそうです。 自分らしさ、持ってる?佐久間裕美子著『ヒップな生活革命』(朝日出版社)ではポートランドやブルックリンの若者は「一目見て何か分かるものを身につけるより、自分独特のスタイルで装うほうが『ヒップ』」と述べています。 2001年にCMで「自分らしさ、持ってる?」と言ったのは中田英寿。それはさておき、まさにノームコアには“自分らしさ”が重要な様子。 菅野さんによると、 「ノームコアは自分をよく知っていて自信があり、内面から自分らしさが滲んでいる人のスタイルだと思います。セレブで言うと、映画監督のソフィア・コッポラや、女優・歌手のジェーン・バーキンがそれに当たるのでは」
とのこと。では、ノームコアらしいアイテムとは? 「スニーカー、Tシャツ、スウェット、シャツ、ミニマムなニット&コートなど、自分にとって着心地がよく、サイズ感が自分らしいもの、一見して“ブランドもの”とわからない定番アイテムなら、どこのブランドもアリだと思います」(菅野さん)
どうやら“ノームコア”とは、「ギャル系」「コンサバ系」など、自分をわかりやすく記号化するためのファッションではなく、シンプルでクオリティーの高い服を選んで、自分らしさ、個性を追及する新しい考え方のようです。 外見ではなく、中身を重視する“ノームコア”の時代、あなたは何で勝負しますか? (編集部) |