繊細なレース、大胆な色使い、最先端の技術で女性の体をさらに美しく演出するフランスのランジェリー。1880年代から現代までの代表的なランジェリー約150点が一堂に会した「フレンチ・ランジェリー」展が7月28日(月)まで表参道で開催中だ。デザインや機能の変遷とともに、女性の意識の変化、その社会背景をたどる展示となっている。オープニングにはキュレーターである美術史家、キャサリン・オーメン氏が来日。セクシュアリティを愉しむ国、フランスのランジェリー事情を聞いた。 「美しく体を形作るもの」から「個性を形作るもの」へーーフランスの女性が、男性の添え物として美しく着飾るためではなく、自らの意志でランジェリーを愉しむようになった社会背景を教えてください。 キャサリン・オーメン氏(以下オーメン):特に象徴的な出来事があったというわけではありませんが、フランスでは1975年に人工妊娠中絶が合法化されました。それが意識の上で男性と対等になった一つのきっかけではあると思います。60年代後半から70年代の後半にフェミニズム運動が盛り上がり、運動家たちがブラジャーを脱ぎ捨てたこともありましたが、多くの女性はブラジャーに愛着を持っており密かに保存していました。70年から80年にかけて化学繊維のライクラが下着に用いられるようになり、デザイン、機能の幅が広がりました。スポーツには機能的なもの、エロティックな気分の時はそういったもの。「美しく体を形作るもの」から「個性を形作るもの」へと役割が変化したきっかけだと思います。 ーーランジェリーには、デザインや快適性を重視する一方で、「男性を誘惑する」という目的もありますが。 オーメン:もちろんそういった側面もありますが、それが唯一の目的ではなく、女性が自ら選んだランジェリーが、結果的に恋愛を演出する一つの要素になったということだと思います。ここに展示されているランジェリーはどれも魅惑的でありながら、下品さは全くないでしょう? 展示しているのは実際にたくさん生産され、何百枚も売れた実績のあるものです。ロシアで展示を行った際には「お母さんが昔着ていたモデルがあったわ!」と感動していた方もいらっしゃいました。当時、ロシアは海外からの下着の輸入は禁止されていたのですが、水面下で輸入されていたのでしょう。いずれにしても、きちんと鑑賞できるランジェリーです。 ーーフランスでは女性が自ら演出する「セクシーさ」を世代間で受け継ぐ教育が行われているのですか? オーメン:娘の最初のブラジャーを、母親が購入するというのはフランスの伝統ですが、特別な教育があるわけではありません。しかしランジェリー選びには教養が必要です。フランスの若い世代でも、安物ではなく品質の良いものを選ぼうという機運が高まっています。大人の女性は審美眼があるので、品質やレースに対してさらに要求が厳しいんですよ。 世界基準の美しさは存在しない。自分の「美」を信じることーー下着を正しく着用すると、ブラジャーもサイズアップすることがあります。正しい着用法を広めることも大切なことだと思うのですが。 オーメン:それも非常に大切なことです。世界に共通するような理想的な美は存在しません。完璧である必要はなく、自分の美に自信をもつこと。その際に、ランジェリーは一つの助けになります。機能の面でも、心理的な面でも。とにかくモデルは1つしかないと思わないこと。ランジェリーメーカーも近年では、地域の文化、考え方、女性のニーズにあったものを作っています。日本では乳首が見えるものは好まれない、という風に。個別化に進んでいます。 ーー最新のランジェリー事情を教えてください。 オーメン:テクニカルな面、シェイプウエアという点で注目されているのはモールド。レースで面を支えるというのは非常に難しい技術なのですが、縫い目がなく非常に着心地が良い。また3Dのメッシュ。形状記憶で体型に合わせてくれる。デザイン的にはクラシックに回帰する傾向もあり、非常にセクシーなボディスーツ、ゲピエール(ガーター付きビスチェ)、上品なガーターベルト、フルフルレースなど。多種多様になってきています。ランジェリーは外から見えないので優先度が高いものではないですが、靴と同じように、いいものを身につけると気分が高揚しますからね。ぜひ愉しんでいただきたいと思います。
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