子育てしていると、「子どもをちょっとどこかに預けられたら」という状況が、数えきれないほどたくさんある。どうしても外せない用事がある、子連れでは行きにくい場所に行きたい、自分の体調がすぐれないので休みたい…。特に働くママたちは、助けてほしいシーンのオンパレードだ。でも近所に両親や親戚がいなければ、いちいち一時保育やベビーシッターを頼まなければいけない。一時保育は当日いきなりでは空きがなかったりするし、ベビーシッターは高額。気軽な利用はなかなかできないのが実状だ。 子どもを預け合えるサービス「AsMama(アズママ)」そんな中、2013年4月に立ち上がったのが子育てシェアの仕組み「AsMama(アズママ)」だ。代表を務めるのは、実際に育児と仕事の両立で苦労した経験のある甲田恵子さん。 「職業訓練校には出産・育児で働けなくなった母親がたくさんいて、そういう社会に対して強い矛盾を感じた。会社で働くってなんだろう?」と思ったことが起業のきっかけとなったそう。子どもを預け合える、ママ同士頼り合える地域のコミュニティとネットワークをつくろうという考えで、サイトに登録したママさん同士の交流を生む地域イベントの実施や、「預けたい!」となったときに支援者を探せるオンラインサービスなどを行なっている。「送迎や保育などをお互いにし合いたい」登録者数は現在のところ約4500人。関東だけでなく、岐阜・名古屋、関西、九州でも盛り上がりを見せているという。「5年以内には台湾・タイ・シンガポールへ、そして20年以内には同じ問題を抱える介護・障碍者の分野にも進出したい」と甲田さんは生き生きと語る。 1時間500円でご近所さんに預けられるサービスの大きなポイントは、1時間500円で子どもを預けられる、ということと、子どもの保育園や学校が同じユーザー同士を自動でグルーピングしてくれる、というところ。学校が同じ、ご近所さん、もともとの知り合いなど、カテゴリを選択してメールで依頼内容を一斉送信する。もちろん、各カテゴリ内のメンバーは自分で編集可能だ。昔は、普通に行われていた、ご近所さん同士での気軽な子どもの預かり合いの現代版といったところ。「家族ではない人に頼みづらい」というハードルを、リアルイベントによるママ同士の交流と、1時間500円という明確な対価でクリアし「何かあったときが心配」という懸念には、最大5000万円の損害賠償保険で応えている。また、今後進めていきたいのは、ひとつのマンションに住むママたちをまるごと登録する仕組み。すでに何件か実施が予定されているという。 子育ての経験が活かせる「ママサポーター」さらに、ママサポーターという制度が特徴的だ。研修を受け、ママサポーターとして登録すれば、アズママに登録されている子どもたちの保育園送迎や保育支援などを仕事として積極的にこなすこともできる。子育ての経験が活かせるし、空いている時間だけ支援できるから子育て中でも無理なく続けられる。活動中はアズママの保険が適用されるから、保育士の資格等がなくてもチャレンジしやすい。甲田さんは「子どもの保育経験を活かしたい女性と、子育てで頼りたい母親。この人たちを結びつけることで、少子化や女性の社会進出など、さまざまな社会問題が解決できると思うんです」と語る。 「実際に利用するとなると不安…」ママたちの疑問に回答都内在住で小さな子どもを持つママたちにアズママの感想を聞いたところ、これまでになかった、しかも新しいサービスだけにさまざまな疑問がよせられた。今回は、その疑問を甲田さんに回答していただいた。 【1】どこまで自分と子どもの情報が公開されてしまうの? 甲田「登録には自分の顔写真と、子どものプロフィールが必要ですが、サービス開始当初はそれをすべての会員同士が閲覧可能にしていました。現在は、公開範囲を「友だちのみ」に限定することができます。また、自動でグルーピングされるのは子どもが同じ学校の保護者のみになります」 【2】仲のいいお友だちにお金を払うのは、逆にやりにくいかも? 甲田「オープン前は試験的に金額を自由設定にしていたので、たしかに、仲の良い人同士では頼まれた方が“いいよいいよ”とお金を受け取らない方もいました。そこで何が起こったかというと、0円で“預けた方”が逆に気を使ってしまって、2回目が頼みづらくなるんですね。“本当は明日も預かってもらいたいけど、でもタダでやってもらったから悪いな、言いにくいな”となってしまって、結局継続的な利用ができない。また、お金のかわりにモノを、という方も出てきます。“あの奥さんはゴディバのチョコレートを持っていった”なんてウワサになると、“じゃあうちはブドウくらいでいいの?”と余計な気を使ってしまう、という声もありました。頼む方も頼まれる方も一番気が楽な500円くらいが、継続的な利用につながるんです」 【3】病気の子どもを預けていいのかな? 甲田「依頼は、預ける方と預かる方が直接交渉するので、基本的にはお互いの判断で決めていただくことになります。伝染する可能性がある病気の場合は、預ける方はあんまりいませんね。ただ、登録者の中には看護師・医者・保育士・小学校教諭などの有資格者もいて、有資格者を指定して依頼することもできます」 甲田さんはこのサービスを通して、「困ったから頼る、のではなく、母親も自分のやりたいことをやるために、どんどん身近な人に頼れる社会にしていきたい」という。“子どもを預ける”ことは、良い母親ならば避けるべきことなのだろうか。「たくさんの人たちに触れ、多様性の中で育つ」ことで、子ども自身が得るものはきっと大きいはず。”孤育て”を元凶としたさまざまな問題を解消する“つながり作り”という点でも、アズママの今後に期待したい。
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