「我慢できなくなるほど歯が痛くならないと歯医者に行かないという人は多いです。でも放っておくと口の中ばかりか、全身が崩壊していくんですよ」と語るのは、歯科医師の小山悠子(こやま・ゆうこ)先生。芸能界や政財界の著名人が通う歯医者として知られる医療法人社団明悠会 サンデンタルクリニックで理事長を務められています。 「20代の頃はまだいいですが、30代以降になると、それまでの“悪習慣”がだんだんカラダにあらわれてきます」と小山先生は続けます。仕事が充実してプライベートもどんどん楽しくなる30代。「歯医者に行ってるヒマなんてない」という人も少なくないかもしれません。ところが、「歯医者に行かない」だけで歯ばかりか、カラダ全体が知らず知らずのうちに損なわれて「ブス」になっていく。その恐ろしさについて、詳しく聞きました。 小山悠子(こやま・ゆうこ)先生 早い人だと10代後半から歯周病に――歯周病はテレビCMなどでもしきりに注意が呼びかけられていますね。それほど怖い病気なのでしょうか? 小山悠子先生(以下、小山):歯周病は、細菌の感染により歯肉に炎症を引き起こします。進行すると歯を支える土台が溶け、最終的には歯を失う原因となります。日本人の成人の約8割が罹っていると言われていて、10代後半、高校生くらいからすでに歯周病の初期に入っています。 歯を失うことの怖さは、単純に見た目が悪くなる以上のものがあります。失われた歯の数が多い人ほど寿命が短く、認知症の発症率も上昇しているという結果が出ているのです。動脈硬化や細菌性心内膜炎の原因となる他、糖尿病、骨粗しょう症、胃潰瘍、低体重児出産、アトピー性皮膚炎、肺炎など、数えきれないほどの“マイナス”を引き起こします。歯周病菌は、口の中に潜む「小さな殺し屋」と言えますね。 ――それは非常に恐ろしいですね。 噛みグセで顔がだんだん非対称に小山:病気以外の問題には、噛みグセができてしまうことです。利き手があるのと同じように「右噛み」か「左噛み」のクセがついていたり、虫歯で歯肉が弱っている側で噛もうとしなくなったりして、咀嚼に偏りができてしまうのです。その結果、顔がゆがみ始めます。 同じ側で噛んでいると、その周辺の筋肉ばかりが鍛えられ、そこだけ発達していきます。筋肉だけでなくあごの骨も発達し、顔の形、目、鼻、唇、頬といった顔の全パーツが、自分の噛みグセの通りに変形していくんです。 ――左右対称が美人の条件と言われています。顔のゆがみは大敵ですね。 頬杖も「顔のゆがみ」の原因に小山:いつも左に顔をかしげるクセのある30代の患者さんがいました。彼女の顔は唇が曲がり、上の歯と下の歯の中心がズレていたのです。話を聞くと、高校生のとき、陸上選手として部活に励んでいたのだとか。トラックを走る際は左曲がりに走るので、それが普段の生活にもあらわれていたのです。 習慣といえば、頬杖をつくクセも顔のゆがみの原因となります。顔は、よく見ればきれいな左右対称ではありません。その微妙なズレも愛嬌のひとつではありますが、自分をより魅力的に見せるために、なんとなくやってしまうクセを改めたり、筋肉を鍛えたりすることは大切です。 各パーツの「理想のバランス」とは――魅力的な顔というのはどのような顔なのでしょうか。 小山:美しさの基準は人によりますが、「バランスのとれた理想的な顔」の目安があるのでご紹介します。 顔の各パーツの理想のバランス こちらを参考にして、お化粧の仕方、スマイルの仕方をチェックしてみてください。顔の筋肉は小さいので、トレーニングすると思ったよりも早く効果が見えて、鍛えるのが楽しくなりますよ。 「歯ぎしり」で老化が加速する――歯周病や顔のゆがみを防ぐためには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか? 小山:まずは正しく咀嚼することが大切です。食べ物もスナック菓子などの柔らかいものではなく、きんぴらごぼうのような噛み応えのあるものを摂るようにしてください。最近は現代病とも言えるのか、無意識に歯ぎしり、食いしばりをする人が増えています。これには、攻撃性を抑制してストレスを解消する意味合いがあります。まさに「歯を食いしばって頑張っている」状態。 しかし強すぎる歯ぎしりは、歯を磨耗させたり、歯周病を進行させたりする要因につながる他、頭痛や肩こりといったトラブルも引き起こします。緊張していると感じたら、深呼吸をして肩の力を抜き、顔の筋肉をリラックスさせ上下の歯を噛み合わせないようにすることを意識してください。また寝ている間はマウスピースをつけることもおすすめします。 カラダを正しく使えば老化は防げる小山:カラダは、本来そうあるべき状態で正しく使ってあげないと加速度的に老化していきます。部品を交換できる機械と違い、私たちのカラダに代替品はありません。一度崩れてしまうと元に戻すまで時間がかかります。手遅れになれば一生戻らないことだってあるのです。 咀嚼の仕方、姿勢の正しさ、食生活、運動など、カラダにとって「正しい基本」を忘れないようにしてください。定期的に検診を受けることも基本のひとつ。歳をとってから後悔しないよう、自分の悪いクセに早く気づいて、よい習慣を身につけてほしいと思います。 |